(その2)12月、結婚式が終わった夜に(2)

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(その2)12月、結婚式が終わった夜に(2)

 心地いい疲れに包まれている。巽は夫に抱きついたまま、「本当にいいお式だったね」と余韻で胸がいっぱいだ。ややあって体を離すと、式に参列してくれた親友のぬいぐるみ、ハム太くんを胸に抱き寄せ、ベッドに放りだしたスマートフォンを先生に見せる。  ブライダル会社のサービスで、式中に南條夫妻や招待客を写した写真が、早々と転送されていた。 「見て、先生! お祖父ちゃんの笑顔! こんなにうれしそうなのはとっても珍しいんだよ。お祖母ちゃんもうれしそう。お義父さん、お義母さんも、お義兄さんたちも、すっごく喜んでくれたね。夏葉ちゃん、ドレス姿可愛かったなあ。先生の生徒さんたち、『先生のジゴロ!』って歓声上げてて、おれ、笑っちゃった」  幸せそうににんまりする巽。南條は妻の額にそっとキスする。 「君は本当にきれいだった。ドレス姿も、スーツ姿も。誓いのキスのとき、君の顔を見て、おれは……」  そこで言葉を切り、南條は巽の目を見つめた。鋭い灰色の瞳がわずかに濡れている。 「そのときおれは、この人と夫婦になれるんだと思った。入籍して一か月経ってるし、ずっといっしょに暮らしてきたのにな。でも、そのときそう思ったんだ」  巽の目も濡れる。南條の胸に抱きついて、「おれたち、夫婦だね」と笑う。ずっと夢に見ていた、先生のお嫁さん。夢が叶った巽は自分が最強になった気分だった。抱きついたまま、細い腕で力こぶを作るポーズをしてみせる。 「ねえ先生、こんなに幸せなんだもん、おれ、今日はつよつよ! 泥棒もおばけもやっつけちゃうよ!」  南條が朗らかに笑う。 「はは、それは頼もしいな。でも、やっつけるのはおれに任せてくれ。巽くんは、着替えてゆっくりしてて。お風呂、先に入るか?」 「まだ入らない! この感動をもっと味わいたいもん。しばらくこの格好で写真見てる」  真剣な顔をする巽の頬を指の背で撫で、「そうか」と南條もうなずいた。 「じゃあ、おれは着替えていいか?」 「……うん」  先生はおれとは違う気持ちなのかなあ、と、ふと巽は悲しくなった。しかし、こんな晴れの日に悲しい気持ちになんて、なりたくない。ハム太くんを抱えて、巽は黙った。  先生がまた、そっと隣に腰を下ろしていた。 「巽くん。どうした?」  巽は顔を上げ、にこっと笑った。 「なんでもないよ、先生」 「そうか? ……本当にいい式だったな。おれも余韻といっしょに過ごすよ。着替えて、風呂に入って、写真を眺めて、幸せなまま眠りにつくんだ」  今夜の夢が楽しみだよ、と笑う。夢で君ともう一度結婚式を挙げるんだ、と。巽は先生の顔を見つめる。その幸せそうな、優しい笑顔に、巽の目に涙が滲んだ。 「……うん。うんっ」  抱きついて、やっぱり先生も同じ気持ちでいてくれたとじわり幸せがこみあげた。  やり方が違っても、先生とはやっぱり夫婦なんだ。夫婦になれたんだ。  うれしくてうれしくて、先生の顔にいっぱいキスした。
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