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(その4)1月、先生の誕生日に(1)
今日は、一月二十三日。南條先生の誕生日だ。
巽は朝から張り切っていた。珍しくも七時半に起きて、てきぱきと洗濯をし、干して、朝食の目玉焼きを焼きながら昼のパーティの準備をする。
すなわち、キムチ鍋だ。
ニラを切ったり、白菜や豚肉を切ってスープを作ったりと、忙しい。背後からのっそりやって来た夫は、自分とおそろいの「もこもこボアフリース(くまちゃんの耳つき)」を着て料理に精を出している新妻に、「そんなに張り切って大丈夫なのか」という顔を向ける。
「巽くん、鍋パは昼からだし、そんなにがんばらなくても……」
巽は勢いよく振り向いて、勢いよく首を振る。
「ううん! こういうのは、準備がいちばん大事なの! それより先生、目玉焼き焼けたよ〜」
フライパンごと差し出され、南條は少々気圧された面持ちだ。それでも、フライ返しで上手く目玉焼きを皿によそった。
「三つ子か、奮発したな」
「だって、先生のお誕生日だもん」
黄身を三つ落とした目玉焼きを前に、へへ、と巽は笑う。改めて夫を見上げた。一九〇センチの先生は、もこもこフリースの威力でますますゴツく見える。まるで本物のくまさんだ。
巽は先生の太い腰にぎゅっと抱きついた。
「お誕生日おめでとうございます、先生! だいすき」
ふにゃりと笑う巽に、南條も穏やかに答える。
「ありがとう。おれも君が大好きだよ」
「……先生、ちょっと冷静すぎない?」
「ん? そうか?」
「うん。もっと、『好きすぎてめちゃくちゃにしたい!』とか、言ってほしい」
純粋すぎる目に見つめられ、南條は笑って目玉焼きの皿を掲げた。
「おれは、そういうことは言うのではなく、ベッドで実行するようにしている」
巽の顔がさっと赤くなった。もじもじと、夫の胸元をいじる。
「せ、先生ったら野獣なんだから……!」
それが本当だと知っているのは、世界で巽ただ一人だけだ(例え南條が過去に何人とつきあっていようと、そうなのだ)。
南條は目玉焼きの皿を食卓テーブルに持っていく。ソファに座っていたハム太くんと目があって、笑顔で「おはよう」と言った。
(おはようございます)
挨拶を返すハム太くん。巽がトーストの載った皿を二枚運んできた。
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