第二章 離れがたき愛の底

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 陽が昇る。心を不安にざわつかせる赤い光が消え去る。  湖は変わらず漆黒を湛えたままだった。そこにメサニフティーヴは白い息吹を吹きかける。  竜の力によって撫でられた水面は波打ち、その白波は湖の隅々まで広がっていく。  湖を死に染め続けていた存在は、もういない。漆黒は燃え上がった。そして青々とした水が姿を現す。  どこまでも青く、清らかな水。せせらぎが静かに森に響く。湖から生まれる清らかな風が、ゆっくりとあたりの死を薄めていく。  この湖をもとに、周囲も浄化されていくだろう。  そして完全ではないものの、この場所はいつの日にか、かつての姿を取り戻すだろう。 「ここの竜達は、この場所が、大好きだったんですね」  メサニフティーヴの背に飛び乗ったフェガリヤは、ただただ美しい湖を見下ろす。  ――だから彼らは死してもこの場所を離れなかった。  ――この場所を死に場所に選んだ。  結果、彼らの故郷はひどく穢れてしまったけれども。  旅立ちの時。メサニフティーヴは羽ばたき、青空に舞い上がった。  その羽ばたきに、また湖は波打ち、鈴のようなせせらぎを響かせる。  底すらも見えるほどの透明を取り戻した湖に、もう竜はいない。 【第二章 離れがたき愛の底 終】
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