もう一度、キミと

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私にはとても大切な人がいた。幼馴染で同じアパートに住んでいて初めてできた恋人だった尚人。彼が今どこで何をしているのかはわからない。 中学校卒業と共に、彼との思い出が詰まったあの町を出た。父親が転勤することになったから。引っ越す日私は尚人といつかもう一度会う約束をした。だから社会人になった今、彼を探すためにあの町を訪ねることにした。昔友達と遊んだ公園があった場所はコンビニになっていて、彼と私が住んでいたアパートがあった場所はスーパーになっていた。偶然会った友達に尚人の居場所を聞いてみたが知らないとの事だった。昔、尚人と仲が良かった友達にも聞いたが高校を卒業してから引っ越したから知らないと言われた。 彼に会えなかったが、明日は仕事があるため家に帰ることにした。 次の日、仕事に行くために準備を済ませ電車に乗り込んだ。いつも通りイヤホンを耳にはめて外を眺めていると電車とすれ違った。その電車の窓側にいるある男の人と目が合いその人はニコッと笑った。電車がすれ違った数秒だから絶対とは言えないが尚人だったような気がした。次の日も同じ電車とすれ違ったがそこに彼の姿はなかった。その次の日も、またその次の日も彼を見ることはなかった。私の勘違いだったんだと落胆した。彼を思い出してしまうのが辛くて、電車の外は見なくなった。家に帰ってなんとなくつけたテレビそこにはバラエティー番組のインタビューに答える彼の姿があった。どうしても会いたかった私は休みの日に彼がインタビューを受けた交差点を訪れた。残念ながら彼に会うことはできなかった。そして、次の休みの日もそこを訪れたが、会うことはできなかった。諦めて、その日は昔行ったことのあるラーメン店に行ってから帰ることにした。スマホで調べたラーメン店までの道のりを辿っていると尚人に似た人とすれ違い振り返えると、彼は私がさっき通った横断歩道を渡っている途中だった。考えるよりも先に気付いたら追いかけていた。でも次の瞬間、言葉を失うようなできごとが起こった。信号無視の車の走行音、ブレーキの甲高い音、 衝突音、一瞬だったはずのできごとが私の目にはスローモーションで映った。 その場にいた人の叫び声が、泣き声が、苦しそうな声が私を現実に引き戻した。彼のもとに行った私は震える声で彼の名を呼んだ。私の声彼は 「また会えたね」 と言って電車ですれ違ったあの日のようにニコッと笑って意識を手放した。少しして、救急車や警察が来た。重症の人から救急車で運ばれた。尚人は重症だったため早い段階で病院に運ばれた。尚人が処置を受けるために手術室に入って1時間が経った頃彼の両親が来た。泣いている彼の両親の隣でただ座っていた。数時間後、処置が終わり病院の先生が手術室から出てきた。最善を尽くしましたが尚人さんは亡くなりましたと言う病院の先生の言葉で何かが自分の中で壊れた。あまりにも突然のできごとでドラマみたいに涙なんてでなくて、何も考えられなくなって気付いたら自室のベッドで横になっていた。コンコンとドアをたたく音の後勝手にドアが開いた。そこにはなぜか母がいた。黒い服に身を包んで涙目だった。そんな母を見てお葬式に行くのだろうと悟った。なぜか頭は冷静ですぐに着替えて、準備をして母の運転する車で彼のお葬式に出た。お葬式が終わり私と彼の両親以外が帰り静かになった会場で、棺に入って静かに目を閉じて開かない彼の頬にそっと触れた。人間とは思えないほど冷たくて無機質な彼を前に涙が勝手に流れた。それから、彼は骨になってしまった。彼の両親が私に遺骨をくれた。家に帰ってからも遺骨を抱きしめながら涙を流し続けた。壊れてしまった私の心は尚人だけを求めていた。もっと早く会えていたら、あの時引っ越さなければ後悔だけが私を埋め尽くす。もう一度だけでいい声が聞きたい。他にはもう何もいらないから。 「好きだって、愛してるってもう一度でいいから言ってよ…」 彼に届くことのない言葉はそのまま消えた。やっと会えたのに言葉を交わすこともなく離れ離れになってしまった。彼の声が聞きたい。私のそばにいて昔みたいに太陽のような笑顔を見せて。止まったまま動くことのない私の心は暗闇に溺れて、虚しさに飽和され、光すら霞んで見える。 彼の死から1年がたった。まだ立ち直れず彼のお墓に頻繫に訪れていた。 今日も1人でお墓に訪れた。掃除や花の入れ替えを済ませ帰ろうとすると真っ白な猫がついてきたないとなく尚人と同じような雰囲気を感じ、私のマンションがペット可だったということもあり拾って帰ることにした。動物病院に行って検査や注射を済ませ、家族の一員になった。尚人を失った心の傷がいえることはないがこの猫のおかげで徐々に今までの生活に戻れるようになっていった。
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