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「喜予がそこまで言うなら、良かろう。私も協力しよう」 「はい! お願いします!」  二人の協力があれば、百人力である。 「まずは死神を呼び出して貰って、契約交渉しようと思っています」 「そう簡単にはいかない」 「やっぱり呼び出せないんでしょうか?」 「いやいや、そうではない」  喜一は、一層険しい顔になった。 「死神は複数いる。必ずしも、天喜教団が契約している死神を呼び出せるとは限らない。名前も顔も何も知らなければ、固体の判別は出来ない」 「特定の死神を呼び出すには、名前か顔が分かればいいんですか?」 「そうだが、顔はおそらくどいつもドクロで個性がない。出来れば名前が分かればいいのだが、死神は人に決して名前を教えない。名前を知られると、支配されてしまうからだ」 「死神が人に支配される?」 「ああ。だからなのか、彼らは極端に無口である」 「名前さえ分かれば死神を支配できるってことは、わざわざ寿命を差し出して契約しなくても使えるってことですね?」 「そうだろうね」  いいことを聞いた。しかし、死神を特定して呼び出す方法が分からない。 「困った。どうすればいいんだ」  ヨシタカが困っていると、喜予が言った。 「向こうから来てくれれば、万事解決ですね」 「向こうから?」  まさに発想の転換。こちらが呼び出してもどの死神が来るか分からないのなら、向こうから来て貰えばいいのだ。 「その死神を呼び出せるかもしれません」 「ほう、心当たりがあるのか?」 「はい。死神は、私の指導霊アルルに憑りついて監視しています。彼女を呼び出せば、死神も一緒に現れるはずです」 「なるほど」 「でも、一つだけ懸念があります。アルルは、非常に怯えていて、呼んでも出てきてくれるかどうか分かりません」 「ではその方を安心させるために、護摩を焚いて不動明王様に息災を祈願しましょう」  喜一と喜予は、不動明王の前に築かれた壇に向かうと、護摩を焚いた。火炉に白膠木をくべながら一心不乱に念仏を唱えて祈願している。  火の粉が上がり、熱が伝わる。 (あれは!)  炎の中に阿修羅が現れて二人を見守っている。 (ありがたい)  ヨシタカの守護神は、マリア観音であるが、死神に対してどのような対応を見せてくるのか全く未知数で不安だったが、阿修羅なら死神に襲われても頼もしく戦ってくれそうだ。  これならアルルも安心して出てこられるだろう。  一時間ほどで終了した。  喜一が後ろを向いてヨシタカに言った。 「今度は君の番だ。指導霊を呼び出したまえ」 「はい! アルル! アルル!」  ヨシタカは、アルルに呼びかけると、疲れた様子で現れた。 「アルル! もう安心だ! こちらの方たちが力を貸してくれることになった。それで、教団の死神と交渉しようと思っている。君に死神が憑いているんだよね? どこにいる?」 「死神は、ここにはいません」 「君に憑いているんじゃなかったの?」 「しばらくの間は付き纏われましたが、新たなターゲットが現れたようで、そちらに向かっていきました」 「新たなターゲット? それって、天喜の国に近づく者が新たに現れたってこと?」 「そのようです。それで私もこうしてヨシタカの前に出てくることが出来ました」  それは喜ばしいことだが、当てが外れてしまった。  ここでその死神と話して、あわよくば名前を言わせて支配下に置くつもりだった。  そう簡単には行かないにしても、何かしらの糸口を掴むつもりだった。その前につまずいてしまった。 「喜一さん、喜予さん、教団の死神を呼び出すことは出来ませんでした」 「事情は分かった」 「俺とアルルの話が聴こえていたんですか?」 「ああ、勿論だよ。我々の力を侮っていたかい?」 「いえ、そんな、滅相もありません!」  正直、この親子にそこまで分からないだろうと侮っていた。そのことをしっかり喜一に見抜かれていた。 「ハハハ、まあいい。死神がターゲットを変えたということは、新たな犠牲者が出るということだ。これはうかうかしていられない。そこで、我々も死神を味方に付けてはどうだろうか」 「死神には死神を、ってことですか?」 「そうだ。やってみる価値はあると思う」 「でも、そうなると、寿命を差し出すことになります」 「契約しなければいい。話だけでもしてみよう」  そう言うと、喜一が死神を呼び出し始めた。不動明王を背にして、両手を合わせて念仏を唱えている。  魂に呪いを込めて繰り返し念仏を唱える。それにつれて邪眼に変化していった。  さらに、先ほどまで護摩で熱くなっていた室温が急激に下がり始め、とうとうブルブル震え、吐く息が白くなった。 「死神よ! 我の血と引き換えに姿を現わしたまえ! カァー!」  活を入れると、極寒の霊気を纏った黒い影が、眼前にユラユラと現れた。薄墨色だったそれは、やがて漆黒になり、姿がはっきり見えた。  黒マント姿。黒フードの下に白いドクロ。両手に小鎌を握っている。まさに、死神のイメージそのもので現れた。
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