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(ウワー! 出た! 死神だ!)
死神を初めて近くで見たヨシタカは、恐怖より好奇心が勝って隅々まで観察した。
決してこちらの期待を裏切らないそのフォルム。死神が皆、この姿なら区別は難しいだろう。
目が慣れていくと、あることに気が付いた。顔はドクロなのに、小鎌を掴んでいる手は皮膚で覆われていて、黒い爪まで生えている。
長い袖と長い裾に隠れていて足は見えなかったが、全身骸骨というわけではなさそうだ。
「我を呼びだしたのは貴様らか?」
死神が喋った。
「は、はい! そうです!」
最初は緊張して身構えた。
「我と契約したいのか?」
「はい!」
「では、代償として貴様の寿命を頂くが、それでよいか」
気遣いの出来る死神。こちらの話を聞いてくれそう。
「その前に、いくつか質問してもよろしいでしょうか」
「なんだ?」
「死神さんは、天喜教団と契約していますか?」
「しておらん」
期待した死神ではなかったが、味方に出来れば立派な戦力となる。契約しないですむのが一番なので、こちらの言うことを聞かせるためにも、何とか名前を手に入れたいものだ。
「私の名前は、木佛ヨシタカです。死神さんのお名前を教えてください」
「……」
さすがに正面から聞きすぎた。こちらの意図がバレバレで怒り出さないか心配になる。
「聞いてはいけませんでしたか?」
「それ以外の質問には答えよう」
物わかりが非常に良くて、最初の緊張が解けてきて段々と楽しくなってきた。
「私たちは、天喜教団と契約している死神を追い払いたいのですが、そんなことも出来ますか?」
「死神を敵にするということか」
「そうです」
「……」
死神は、答えに詰まったのか、しばらく考えていた。
「死神同士で戦うことは、そんなに難しいですか?」
「そういうことではない。我々は同業者であるが、ライバルでもある」
「では、勝つ自信がないってことですか?」
「そんなことはない!」
死神が自尊心を傷つけられて怒り出した。そこをもっと刺激してみようと、ヨシタカは作戦を思いついた。
「本当に勝つ自信はあるんですか?」
「勿論だ! 我を見くびるな! やってやろう!」
面白いほど、こちらの思う壺に嵌ってくれた。
「ただし、相応の代償が必要である。その内容では、かなりの寿命を貰うことになる。その覚悟がそちらにはあるのかな?」
かなりの寿命と聞いて腰が引けていると、喜一が前に出た。
「どのくらい必要かな?」
「残りの寿命全てだ!」
「全て⁉」
どうしようかと躊躇っていると、喜予が怒り口調で死神に詰め寄った。
「おい、死神! 吹っ掛け過ぎだ! それでは勝てる自信がないと言っているようなもんじゃないか! 自信があるなら、もっと少なくていいはずだ!」
死神に喧嘩を吹っ掛けている。ヨシタカは、ハラハラしながら見守った。
「不満なら、契約しなくてもいいのだぞ!」
怒り心頭の死神が両手の小鎌を喜予に振り下ろそうと、大上段に構えたところで阿修羅の権化が現れた。喜予に手を出すことを許さないと言う目で睨みつけたので、死神は動きを止めて、そのまま睨み合いとなった。
(ヒー! こんなところで神々の戦いが始まるのか⁉)
人智を超えた一触即発の状態にヨシタカがオロオロしていると、喜一が慌てて止めに入った。
「私が契約しよう!」
ヨシタカと喜予は吃驚した。
「喜一さん!」
「親父! 正気か⁉」
「その代わり、執行は成功してからだ。それと、相手を完全に消滅させたら全部やる。追い払うだけなら半分だ。これでどうだ?」
「はあ?」
喜一の気迫ある交渉に、今度は死神が引いて小鎌を下した。闘気が消えると同時に、阿修羅も消えた。
死神は、喜一の顔をじっと見た。
「あんたの寿命は……、ちょっと短いなあ。そっちの若者のどちらかが良かったが。でも、まあいい。その度胸に免じて契約しよう」
死神は姿を消した。
ヨシタカは、喜一が心配になった。
「喜一さん、本来なら私が寿命を差し出す立場だったのに、申し訳ありません」
「呼び出したのは私だ。それに、元々寿命は長くなかったようだから、今更数年短くなっても大して変わらない」
「親父、本当は怖いんだろ?」
「倅よ、案ずるな。死ぬことなど微塵も怖くないわ! ハッハッハ!」
「死の恐怖を克服しているなんて、さすが仏道を極めた方は違いますね」
ヨシタカ感心していると、喜予が、「いや、あれはやせ我慢しているだけなんで」と打ち明けた。
ヨシタカは、阿修羅を思い返した。迫力ある様子を近くで見られて、興奮が冷めやらない。
「それにしても、阿修羅様は、迫力が違いました。戦闘神と呼ばれるだけのことはありますね。死神に一歩も引けを取らなかったじゃないですか。いや、あれは完全に阿修羅様の方が強いでしょう。死神は、ドクロの顔で何を考えているか読めませんでしたが、案外怯えていたんじゃないでしょうか。あ、阿修羅様なら、死神の名前を聞き出せるんじゃないでしょうか? 聞いて貰えませんか?」
「そんなこと、頼めるわけがないだろ」
「そうですよね。図々しいか。ああー、それと、大事なことを忘れていました。細かいところを確認していませんでしたが、死神は、いつどのような感じで行動してくれるんでしょうか? 呼ぶと出て来るんでしょうか? 勝手に相手を蹴散らしてくれるんでしょうか?」
「どう動くかは、死神次第じゃないのかな? 命じられるのは嫌いのようだったし」
喜一と喜予は首を捻った。彼らにも、死神がどう動くかなんて未知であった。
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