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「あの……」
ヨシタカは、慌てて、「マスター、ちょっと彼と買い物に行って来ます!」と、一声掛けると、マスターの返事を聞く前に、二人で天橋律を外へ押し出した。
そのまま、誰もいないビルの裏手へ連れて行く。
天橋律は、汗をダラダラ流してヨシタカたちにすがった。
「た、助けて、助けてください。死にそうなんです。ずっと体調が悪くて、しかも、何度も死にかけている。ここに来る途中も、事故に遭いそうになって」
原因は、明らかに死神だ。
「ああ、その原因については、心当たりがあります。あなたには……」
死神が天橋律の首に大鎌を掛けた。
「僕には? 何ですか?」
「し……」
大鎌が一層首に近づく。
喜予は、ヨシタカを止めた。
「ヨシタカ君、それ以上はやめた方が良い。彼の身に危険が及ぶ」
「それでは、状況も危機も告げることが出来ない」
「え? 何? 危機って何なの? えーと、こちらはどなた?」
天橋律だけが、危機的状況に気付いていない。
喜予は、死神と目を合わさないように挨拶した。
「私、僧侶の喜予と申します。ヨシタカ君の連れです」
「お坊さんとも仲良しなんだね。よろしく。で、さっきは何を言いかけたの?」
「何でもないです」
「気になるよ! もしかして、僕の体調がすぐれないことと関係ある? ずっと体調悪くて。実は、先日、天……」
死神が大鎌を強く引こうとしたので、慌てて遮った。
「ちょっと待った!」
「え?」
「何も言わなくていい!」
「へ?」
天橋律が喋るのを止めると、死神の動きが止まった。
これで分かった。天喜教団の話題を出さなければ、手を出してこない。
死神が護っているのは、天喜教団である。つまり、そこが不利になる状況を阻止する役目を担っているということだ。
(おそらく、天喜教団について悪意を持って話すものを排除しろ、などと契約条項に入っているんだ。だから、話さなければ手出ししてこない。あとは、彼がそれを口に出さないようにするしかない)
強引だが、それしか方法が見つからない。
「君が言いたいことは、全部分かっているから、何も言わなくていい!」
「あ、ああ、うん。さすが、霊視占いで、なんでも分かってしまうんだね」
「そう! 霊視占いで全て見通している!」
「分かった。もう何も言わない」
死神が大鎌を彼の首から外した。ヨシタカと喜予は、「ハーッ」と、大きく息を吐いた。
喜予は、汗を拭きつつ、ヨシタカと相談した。
「これでは、彼を人質に取られているようなものだ」
「そうですね。匂わせただけでも命を取りにくる」
「つまり、あの件について、我々は一切口に出せなくなったってことだ。実に厄介だ」
死神から、とんでもなく強力な枷を掛けられてしまった。
このままだと、彼はいずれ殺されてしまうだろう。天喜教団について、どこかで誰かに話さないはずがないのだから。四六時中見張って邪魔するわけにもいかない。
「どうすれば、あいつを止められる⁉ どうすれば、引きはがせる?」
ヨシタカは、焦りつつ必死に回避する方法を考えた。
一番いいのは、自分たちの契約死神に追っ払って貰うことだ。
「こっちが契約した死神は、何をしているんだろう。契約は成立しているはずなのに、全然出てこない。早くあいつを追っ払って欲しいのに」
一体何をしているのかと気をもんだ。
喜予は、「もしかして」と、思いついた。
「条件が整っていないんじゃないだろうか」
「喜一さんの寿命と引き換えに、契約は成立したのでは?」
「契約は有効だ。でも、それだけでは死神は動かない。出てきて戦うために、何かが足りないんだ」
「発動条件ってことか。契約の時、何て言ったんだっけ?」
ヨシタカは思い返した。
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