43人が本棚に入れています
本棚に追加
「確か、『天喜教団と契約している死神を追っ払って欲しい』と言ったんだ」
「それだと、漠然としているよな。詳細まできちんと話し合えば良かったな」
あの時は、契約することに必死で余裕がなかった。今更愚痴っても遅過ぎる。
「あの死神は、同業者の邪魔立てをやりたくなさそうでした。そこで、こう解釈したんじゃないでしょうか。俺たちが死神に狙われたら、その時だけ追い払えばいいと」
「なるほど。我々を護ればいいと解釈したってことか。今の状況でピンチなのは彼だけ。我々は無関係。あの死神がこちらをターゲットにしていないのなら、契約に触れていない」
何とか助けてやりたいとは思うが、所詮、他人の命。天橋律が死んだところで、ヨシタカと喜予は痛くも痒くもない。それが残酷な現実だ。
「では、どうする?」
「問題はそこです」
ヨシタカは、頭を捻って発動条件を考えた。そして、ある結論を導き出した。
「こっちがピンチになれば、出てくるのでは?」
「ピンチ?」
「そう、ピンチです。ピンチになれば、ヒーローのごとく颯爽と現れて、退治してくれるんじゃないでしょうか?」
「そんなに都合よくいくかなあ。で、そのピンチな状況に、どうやって陥ればいいんだ?」
「あの死神を俺に憑かせます」
「正気?」
喜予は、耳を疑った。
死神を引き受けることは、死の瀬戸際に立つということだ。そのリスクを自ら背負う覚悟を、このような小さい女の子が持っていることに、喜予は頭を殴られたようなショックを受けた。先ほどまで下に見ていたヨシタカが、今は大きく見える。しかも、肉眼でも分かるほど、強烈なオーラが全身から出ている。
(何という強いオーラだ!)
喜予は、ヨシタカの強さに初めて気づいた。
(このまま、任せていいのか!)
喜予は、自分に出来ることを考えた。
(こんなに小さい女の子を、危険にさらすわけにはいかない!)
自分の中の美学が働いた。
「その役、俺がやる!」
「結構です」
「あらー!」
あっさり断られて拍子抜け。
「元はと言えば、俺が持ち込んだ案件です。喜予さんを危険に巻き込みたくありません。喜一さんがご自分の寿命を差し出してくれた。それだけで充分です」
「親父ばかりに、いい恰好をさせられないよ」
「いえ。俺は、喜一さんの生き様に感銘を受けました。俺もああなりたいんです」
「あれは、ただ、格好つけただけで、あの時の親父は、足が震えていたんだぜ」
「それでもいいんです。強がりで充分。どれだけ恰好付けて生きるかが大切なんです。自分だけ安全地帯にいるのは違うんじゃないかって、ずっと考えていました。今がそのチャンスだと思っています」
そこまで言われたら、喜予にはもう口出せない。
「そうか。分かった。頑張れよ。俺は、俺の出来ることをする。そうだ! 死神がごちゃごちゃ言ってきたら、その時の交渉を今度こそ任せてくれ」
「ありがとうございます。喜予さんがいてくれて、本当に良かったです」
その言葉を聞いただけで、喜予は報われた気がした。
最初のコメントを投稿しよう!