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「確か、『天喜教団と契約している死神を追っ払って欲しい』と言ったんだ」 「それだと、漠然としているよな。詳細まできちんと話し合えば良かったな」  あの時は、契約することに必死で余裕がなかった。今更愚痴っても遅過ぎる。 「あの死神は、同業者の邪魔立てをやりたくなさそうでした。そこで、こう解釈したんじゃないでしょうか。俺たちが死神に狙われたら、その時だけ追い払えばいいと」 「なるほど。我々を護ればいいと解釈したってことか。今の状況でピンチなのは彼だけ。我々は無関係。あの死神がこちらをターゲットにしていないのなら、契約に触れていない」  何とか助けてやりたいとは思うが、所詮、他人の命。天橋律が死んだところで、ヨシタカと喜予は痛くも痒くもない。それが残酷な現実だ。 「では、どうする?」 「問題はそこです」  ヨシタカは、頭を捻って発動条件を考えた。そして、ある結論を導き出した。 「こっちがピンチになれば、出てくるのでは?」 「ピンチ?」 「そう、ピンチです。ピンチになれば、ヒーローのごとく颯爽と現れて、退治してくれるんじゃないでしょうか?」 「そんなに都合よくいくかなあ。で、そのピンチな状況に、どうやって陥ればいいんだ?」 「あの死神を俺に憑かせます」 「正気?」  喜予は、耳を疑った。  死神を引き受けることは、死の瀬戸際に立つということだ。そのリスクを自ら背負う覚悟を、このような小さい女の子が持っていることに、喜予は頭を殴られたようなショックを受けた。先ほどまで下に見ていたヨシタカが、今は大きく見える。しかも、肉眼でも分かるほど、強烈なオーラが全身から出ている。 (何という強いオーラだ!)  喜予は、ヨシタカの強さに初めて気づいた。 (このまま、任せていいのか!)  喜予は、自分に出来ることを考えた。 (こんなに小さい女の子を、危険にさらすわけにはいかない!)  自分の中の美学が働いた。 「その役、俺がやる!」 「結構です」 「あらー!」  あっさり断られて拍子抜け。 「元はと言えば、俺が持ち込んだ案件です。喜予さんを危険に巻き込みたくありません。喜一さんがご自分の寿命を差し出してくれた。それだけで充分です」 「親父ばかりに、いい恰好をさせられないよ」 「いえ。俺は、喜一さんの生き様に感銘を受けました。俺もああなりたいんです」 「あれは、ただ、格好つけただけで、あの時の親父は、足が震えていたんだぜ」 「それでもいいんです。強がりで充分。どれだけ恰好付けて生きるかが大切なんです。自分だけ安全地帯にいるのは違うんじゃないかって、ずっと考えていました。今がそのチャンスだと思っています」  そこまで言われたら、喜予にはもう口出せない。 「そうか。分かった。頑張れよ。俺は、俺の出来ることをする。そうだ! 死神がごちゃごちゃ言ってきたら、その時の交渉を今度こそ任せてくれ」 「ありがとうございます。喜予さんがいてくれて、本当に良かったです」  その言葉を聞いただけで、喜予は報われた気がした。
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