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(何を話しているんだ?)
天橋律は、黙って二人のやり取りを聞いていたが、その意味を半分も理解できなかった。
ヨシタカは、自分を見ている天橋律に話しかけた。
「天橋律さん、今から私が話すことを黙って聞いてください。決して、質問しないでください」
「どういうこと?」
天橋律は、理解できない顔になった。
「私が知り得た、アヤちゃんに関する情報を伝えます」
「アヤちゃんのこと、ちゃんと調べていたんだ。でも、あまりに遅いから、僕も自分で調べたよ。彼女の本名も分かっている。彼女の友達を見つけてさ、その人にいろいろ教えて貰った」
ヨシタカは、天橋律の記憶を覗き見た。魂には、その人の記憶が刻まれている。見ればだいたい言いたいことが分かる。
「ああ、兼高かつらさんに会ったんですね」
「そこまで分かるの!」
「はい。実は私も会って話しています」
「それなら話は早い。僕は彼女から天……」
死神が、また大鎌を彼ののど元に突き付けたので、ヨシタカは、慌てて遮った。
「それは、ご自分の胸だけに仕舞っておいてください!」
「なんで話させてくれないんだ!」
喋る気満々だった天橋律は、手足をばたつかせた。ヨシタカが嫌がらせをしていると誤解している。
意図が分からない以上、仕方のない事だが、喜予はそれにイラついて、ついつい声がとげとげしく大きくなる。
「彼は君のためにやっている! 文句を言うな!」
「そうは思えないけど……」
「いいから、黙って信じろ!」
「うぐ……、分かったよ」
力でねじ伏せた感じになったが、今はこれが最善策だ。
「アヤちゃんは天喜教団にいる、と言いたいんですよね」
「そう! さっきから、そのことを言いたかった!」
「そして、天喜教団からアヤちゃんを救い出したいと考えている」
「そうそう!」
「あそこはカルト。関われば不幸になるだけです。決して口にしてはいけません」
「そんなに危ないところ?」
「最悪最低なカルト教団です。信者からはお金も体も巻き上げ、敵対するものを殺してしまう。私は天喜教団をぶっ壊そうと思っています」
悪口を言いまくったら、死神が移動してヨシタカの後ろについた。
(思った通りだ! 天喜教団に逆らう者、害なす者を排除する契約になっている!)
死神が大鎌をヨシタカののど元に突き付けた。恐怖がヨシタカを襲う。分かっていたことだが、冷や汗が止まらない。
死神は完全にこちらに憑いた。あとは、彼を巻き込まないように遠ざけるだけだ。
「そんなに恐ろしいところだったなんて。でも、アヤちゃんが悪事に手を染めるはずがない。騙されているんだ! 悪いのは教祖だ!」
これ以上罵倒を続けると、死神が戻ってしまう。
「大丈夫です。すべて私に任せて、天橋さんは、アヤちゃんの無事だけを祈っていてください」
「うん。分かった。僕には何も出来ない。帰って、アヤちゃんのために大人しく祈ることにする」
天橋律は、命拾いしたことなど露知らず、死神を残して帰っていった。
「物わかりの良い奴だったな」
「根は純粋なんです」
「だろうな。アヤちゃんって、色恋営業で貢がせるキャバ嬢だろ。ああいう奴が騙されて入れ込むんだ。使った金の分だけ、欲望と執着が生まれる。煩悩を消すことは、とても難しい」
「あまり言わないであげてください。それより、こいつをどうするか」
ヨシタカは、後ろの死神を指さした。
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