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 寺の隣にある自宅へ戻った喜予は、静かに喜一の寝室を覗いた。喜一は、布団に入って高いびきで寝ている。普段と変わらない様子に安堵した。 「やれやれ。何とか寿命を取られずに済んだ。うまく丸めこめられて良かった」  自分の部屋に入ると、寝間着に着替えて布団を敷き、そのまま倒れ込むように横になった。しかし、体は疲れているのに、頭が興奮していて、いつまで経っても寝付けない。 「寝られない……」  何度か寝返りを打ち、枕を抱えて天井を仰ぐ。考えてしまうのは、やはり天喜教団についてだ。 (勢いで、天喜の国に乗り込むようなことを言ってしまったけど、本当にそれで良かったんだろうか)  死神と契約出来るのだから、教祖の霊力は本物だろう。  人の不安に付け込んで信者を増やしてきたことからも、ある程度は本物だと言える。  それに、向こうは集団である。こちらは、せいぜい自分とヨシタカの二人に死神のサングルス。戦力では明らかに負けていて、勝機があるだろうか。  それを考え出すと、悶々としてますます寝付けない。 (まやかし教団なら、いつかは破滅を迎えるはずだ)  ただの嘘つきや詐欺師では、教団の維持に限界がある。いずれ不実や嘘がバレて破綻するだろう。 (その引き金を引くのが俺だ。奴らを破滅に追いやったのが俺だと世間に知れ渡れば……)  喜予は、小さな寺のちんけな呪術師で一生を終わりたくなかった。  世間に名を売りたい。それこそが喜予の野望であった。 「さむ……」  急激に室温が下がってきて、重苦しく嫌な空気になる。これは、あの前兆だ。 「死神がいるのか?」  暗闇に目を凝らすと、いつの間にか、黒マントの死神が部屋の隅に立っていたので、喜予は上半身を起こした。  死神は、2丁の小鎌を手にしている。 「何だよ、サングルスちゃんじゃないか。夜〇いとは大胆だな。さっき、俺のことを冷たくあしらったのは、演技? 意外にツンデレだね」  ドクロの面は、すっかり元に戻っていて、下の表情を窺い知ることは出来ない。  無言の死神は、不気味な雰囲気を醸し出している。 「もういいよ。俺の布団にお入りよ。一緒に寝よ。あ、もしかして、死神と寝た男は、俺が人類初かな?」  サングルスだと分かれば、何も怖くない。それどころか、浮かれて饒舌になった。  喜予が掛け布団をめくって手招きすると、死神は、スルッと入ってきて隣に寝た。 「そのドクロって、すぐに元通りになるんだ。便利だね。それとも、予備があるのかい?」  喜予は近くでドクロを眺めた。作り物だと思っていたが本物だった。 「それ、どこで手に入れるの? 今まで殺した奴から奪っているの?」  死神は、答えない。 「俺の前では、全部外していいんだよ。ドクロの面も、マントも、物騒な鎌も。全てさ」  フードに手を当てると、手応えがなくて、実体がないことに気付く。  中がどうなっているのか気になって、「外していい?」と、聞いた。
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