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◇
時間は少し遡る。
天喜の国に着いたヨシタカと喜予とサングルスは、見張りに立つ大鎌の死神を遠くから監視していた。幸い、向こうはまだこちらに気づいていない。
「あれ、何度も命を狙ってきた死神だよね。もう少し東京でウロウロしてくれれば良かったのに。仕事熱心過ぎるよ」
ヨシタカは、つい口からぼやきが出た。
「案外、行くところがなくて戻ってきたんじゃないか? ここにしか居場所がない寂しい奴なんだよ」
「そんなことはないと思うけど」
ヨシタカは、喜予の言い方に思わず笑ってしまった。
「まあ、これは想定内。天橋律さんに憑りついていないんだから、喜ばしいことだ」
天橋律は、今頃東京で平和に過ごしていることだろう。
ヨシタカは、サングルスの顔を見た。
相変わらず、ドクロの仮面が壊れたままで顔面の80%が見えている。
美形なのだが、感情が一切見えなくて不気味である。まじまじ見ていると、何かを吸い取られていく気がして、心が凍り付いていく。これに恋心を抱ける喜予が不思議でしょうがない。しかし、いくら不気味でも今は彼女が頼りだ。
「君の出番だ。あいつを出来るだけ遠くに長く追いやって欲しい」
「心得た」
サングルスは、一旦姿を消すと、大鎌の死神の後ろに現れて、ガツンと小鎌で後頭部を叩いた。
不意打ちを食らった死神は、逃げていくサングルスを大鎌を振り回しながら追いかけていった。
ヨシタカたちは、小さくなる二体の死神が見えなくなるまで目で追った。
「さっすが! サングルスちゃん!」
喜予は、手放しで称賛している。ヨシタカは、そんな喜予に本音を訊いてみた。
「喜予は、本気であの死神を好きなの」
喜予がニッと笑った。
「ヨシタカは、そればかりだな」
「だって、死神だよ。どうしても信じられない」
「フフ、まあまあ。その話はもういいだろう。それより、潜入するぞ」
「そうだね。これで中に入れる」
はぐらかされた気はするが、今はしなければいけないことがある。
庭に干されていた信者服を手に入れると、それに着替えて施設内に入った。
誰もヨシタカたちに関心を払うものはいない。まんまと中までいけた。
「あとは、綾野陽芽を探し出して説得するだけだな」
「そうだね」
「さて、その子の居場所をどうやって見つけようか」
「それなら、霊視で大体の方角は分かる」
「へ? どう視えるんだ?」
ヨシタカの意外な言葉に、喜予の目が丸くなった。
「俺は、霊魂がぼんぼりのように光って視える。それは、壁の向こうにあっても透けて浮かび上がるんだよね。それを目指して進めば、大体出会えるんだ。迷路になっていなければね」
「そんな力まであるのか!」
喜予は、尊敬の眼差しを向けた。
普通の人なら怖がるものだが、死神も平気な喜予にとっては、恐れるに値しないようで平然としている。
怖がられて人が遠ざかっていくのは、とても辛い。畏怖の目を向けられない、変わらず接してくれることが、ヨシタカにとってはとても嬉しかった。
「あまり使う機会はないし、距離が離れてしまうと出来ないんで、披露することはあまりないんだよね」
ヨシタカは、霊視を始めた。いくつかの霊魂が浮かび上がり、その中から綾野陽芽の形を感じ取っていく。
「あった。あっちだ」
綾野陽芽の霊魂が浮かび上がった方に向かう。
途中で信者に出くわすと、顔を背けたり、背中を向けたり、物陰に隠れたりして、顔を見られないようにやり過ごし、綾野陽芽の部屋の前までたどり着いた。
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