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◇
辺りは闇に包まれて、信者たちが寝静まる。
野山では、夜行性の動物たちが活動を始めて、都会の夜とはひと味違う騒々しさとなる。
ヨシタカと喜予は、何度も時計を見ては、救出作戦のシミュレーションをした。
「綾野陽芽を連れ出したら、闇に紛れて逃げる。駅まで行って、一番列車で東京に戻る」
負傷している綾野陽芽が走り続けられるとは思わないので、途中で休憩も必要だろう。想定より時間が掛かるかもしれない。信者に追われるかもしれない。
考えるだけで緊張する。
ヨシタカは、月の動きを目で追い、喜予は、両手を頭の後ろで組んで大木に寄りかかっている。
「サングルスは、どこまで行ったんだろう」
「そうとう遠くまで、引き離してくれているんだろうよ」
サングルスの姿はどこにもない。あの死神もいないから、契約通りに行動しているようである。
「そろそろ行く?」
「いや、もう少し待った方がいい」
辛抱強く、時が過ぎるのを待つ。
何気なく教団建物に目を向けたヨシタカは、無数の霊が暴れていることに気付いて喜予に知らせた。
「教団の霊たちが騒いでいる。何かあったんじゃない?」
「はあ? なんてこった! これから大事だってのに、邪魔されたくないぞ!」
すると、火の手が上がっているのが見えた。
「建物が燃えている!」
「火事?」
黒い煙があちこちから立ち昇り、窓には赤い炎が幾筋も見えている。
メラメラと炎が燃えているのに、誰も出てこない。おそらく、いまだ火事に気づかず寝ているのだろう。
「早く起こして教えてやらないと、大変な犠牲者が出てしまう!」
「作戦はどうする?」
「どうするもこうするもない! 中止だ!」
この状況下で、誰にも知られず綾野陽芽を連れ出す作戦は諦めざるを得ない。
とにかく、出来るだけ犠牲者を減らそうと、建物に向かって二人は必死に走った。
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