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「せめて消火器があれば」
「消火器程度じゃ、この火は消せない」
「じゃあ、どうすればいいんだ」
頭を抱える喜予を見て、ヨシタカは、自分が頑張らないといけないと気付いて立ち直った。そして、励ました。
「大丈夫。道は必ず開けるから」
絶体絶命の状況下で豪語するヨシタカに、喜予が呆れた。
「お前、頭がおかしくなったのか? もう火に囲まれているんだぞ」
「俺の背中にピッタリ付いてきて。そうすれば助かるから」
「信じていいのか?」
「ああ」
このままではどうせ心中だ。イチかバチかヨシタカを信じてついて行くしかない。
腹を括った喜予は、ヨシタカの背中に張り付くようにくっついて歩調を合わせた。
「さあ、行くよ」
炎の中に二人で飛び込んだ。喜予は、煙を吸いたくなくて息を止めた。
何故か、前方の火が割れて道が出来ていく。まるで、海を割ったモーセの奇跡のようである。
「どうして、こんなことが? 君こそ神か?」
「よくみて」
ヨシタカに言われて喜予が霊視すると、サングルスが火を小鎌で振り払いながら先導しているではないか。
「サングルスちゃん! 戻っていたんだ! 教団の死神は?」
「契約者が死んだので、黄泉の国へ戻っていった」
それは、頼陀の死を意味している。
「そうか。サングルスちゃんは神だから、火が平気なのか。凄いな。ますます愛おしいよ。君は死女神だ。サングラスちゃんの後ろを付いて行けば安全だね」
サングルスの周囲1mだけに空間があった。酸素もあり、熱くもない。普通に息が出来る。
三人が通った後ろは、炎が即座に包んで塞いでいく。
ピンチを死神に助けられることがあろうとは、誰にも想像出来なかっただろう。
喜予は、はぐれないよう必死について行った。
建物の外に出た二人は、ホッとしてその場にしゃがみ込んだ。
「ここまでくれば安心だ」
「はあー、助かった。サングルスちゃん、愛しているよ。俺の愛に応えてくれて嬉しいよ」
「こんなところで寿命を終えられては、我が困るからだ」
「もう! ツンデレだなあ!」
デレの要素が果たして今までにあっただろうかと、ヨシタカは喜予のセリフに疑問に感じた。
「また、ピンチの時に来てね」
「我は死神ぞ。頼るな」
サングルスは、姿を消した。
敵死神がいなくなって、サングルスとの契約は終了した。もう戻ってこないだろう。
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