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◇  兼高かつらは、古いアパートの一室でワイドショーを観ていた。  テレビや週刊誌では、連日天喜教団について、飽き飽きするほど報道している。  逃げ遅れた信者が大勢亡くなって、これだけでも十分にスキャンダラスなのだが、ネットに流れた教祖の死の直前の告白によって、全てインチキだったことや、過去にたくさんの失踪者がいたことまでが明るみに出て、世間の耳目を集めていた。  天喜教団を扱えばネタに困らないから、マスコミ各社は全力取材を競っている。  黒焦げで発見された、性別不明の焼死体の一つが教祖の霊峰頼陀だと判明したが、DNA鑑定で二人分だったことが分かり、それが誰なのかと大騒ぎだ。  一つの塊で発見されたから、当初は一人分の死体だと考えられていた。  二人は抱き合って燃えたのではないかということで、花嫁の誰かではないかと言われていた。しかし、当時施設にいた花嫁候補の信者たちは、全員の身元が判明している。  その人物が一体誰なのか。最高のミステリーとして、コメンテーターたちは、連日熱く論じている。  警察は、必死の捜査を行っているが、真実にたどり着ける日はやってくるのだろうか。  ――トントン。  誰かがノックした。 「……」  かつらは、ゆっくり立ち上がると玄関まで行き、ドアをゆっくり開けた。  そこには、中年女性と、自分と同じぐらいの若い女性がみすぼらしい恰好で立っていた。 「天喜の国が住めなくなって、行くところがなくなって……。ここにしばらく身を寄せさせてくれない?」  中年女性は、かつらの母こずえで、若い女性は、妹のみずきだ。  二人は、天喜教団に入信した後、入信しなかったかつらを捨てて天喜の国に移住していた。  先の火事で焼け出された二人の姿を確認していたから、生きていたことに驚かない。いずれ、ここにやってくるだろうと思っていた。  今回の事件で天喜教団は壊滅状態。住むところがなくなって、信者たちは皆追い出されている。  持ち込んだ荷物は燃えて使えなくなり、お金も持っていない。困った二人は、かつらを頼るしかなかった。  父は、数年前に癌で亡くなっている。  民間療法に頼って財産を費やしたあげく、亡くなった。  この時に入信したのが天喜教団だった。父の遺産は、母が全て相続。それも天喜教団に吸い取られた。  霊峰頼陀に騙されていると反対したかつらを、バカだ愚かだとさんざん罵り、後ろ足で砂を蹴って共に出て行ったのに、困ったからと、こうして頼ってくるのだから勝手な人達である。  天喜教団の信者は、全員家族だと豪語していた。  どれだけ生活を共にしようとも、同じ信仰を持とうとも、信者同志に本当の繋がりはない。困った時に助け合えるのが家族だろうけど、そんなものは幻想であり、現実には皆無である。 「家族は天喜教団だけなんでしょ? 困った時だけ頼ってこないでよ」  二人の捨て台詞を、一時だって忘れたことはなかった。  身元が割れないよう、サングラスで目元を隠して天喜教団についてずっと調べてきたから、あそこで何が起きていたのかを大体掴んでいる。苦労したのだろうが、うっぷんが溜まっていて、嫌味を言わずにいられない。  かつらの言葉に、こずえとみずきは、気まずそうな顔をした。  二人のお腹がグーグー鳴っている。  それを聞いてしまったら、「とりあえず入って。なんか食べなよ」と、言うしかない。  腹は立つが、このまま突き放すこともできない。家族だから、結局助けてしまう。  二人は、ホッとすると、靴を脱いで飄々と入ってきた。
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