第三章「探し人」

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「じゃあねえ、みかん! 頑張って~!!」 「滑れるようになったら一緒に滑ろうな!」  翌日朝から、お姉ちゃんたちと別れて私は集合場所であるロッジの近くに一人で向かう。  昨日、ばあちゃんと二人でイチコーチについてロッジで説明を受けた。  三日間集中コースというものを受けると、ある程度滑れるようになるらしい。 「どうせなら、これにしたら?」  正月明けまで長野で過ごすことになっているんだし、滑れたら姉兄妹で滑れるでしょう、というばあちゃんのススメにより三日間コースに入ることになった。  本日は二日目、ロッジ前には赤いビブスを付けたお兄さんやお姉さんが待っていてくれる。 「おはよ、みかんちゃん!」  イチコーチが私を見つけて手を振ってくれている。 「おはよう、ございます!」 「大丈夫? 身体、痛くない? 筋肉痛になっていない?」 「はい、大丈夫です」 「いいなあ、小学生若い、筋肉痛なんて無縁だよねえ」  サワコーチというお姉さんがニコニコと話に加わってくる。 「おはようございます、サワコーチ」 「おはよ、みかんちゃん! 今日もがんばれ~!」  サワコーチもイチコーチと同じ初心者コースのおねえさん。  初日二人にはたくさん迷惑をかけてしまったと思う。  一緒に入った人の中で私がダントツにヘタクソだったから。  それでも大丈夫だよと待っていてくれたイチコーチのおかげで、三メートルくらいは滑れるようになった。  曲がらなくて怖いから、すぐに尻もちついちゃうんだけど。  でもその転び方は上手ってほめてくれた。  今日は昨日よりも長く滑れるようになること、曲がれるようになること、転ばずに止まれるようになること、私に課せられた目標はそれだった。  明日の最終日に初めて初心者コースの長い長いリフトに乗ってコーチたちと滑り切るのが最終目標。 「リラックスだよ、みかんちゃん」 「はい!」 「顔が力んでる」  イチコーチの手が私の頬っぺたをはさんでプルプル震わす。 「はい、ゆるませて、笑顔~!」  イチコーチの笑顔に釣られて私も笑い返す。  昨日の帰りに「がんばったね、すごいよ、みかんちゃん」って褒めてくれたのが、とっても嬉しかったから。  今日も褒めてもらえるように、一生懸命頑張って。  イチコーチと滑ってみたい。
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