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リフトを二つ乗り継いだのは初めてだった。
サワコーチを先頭にスクールに入った十二人の子たちが後に続く。
私は一番後ろのイチコーチの前になる。
転んだらすぐに助けてもらえるようにだ。
「いい? 少しずつ止まりながら滑るよ? 絶対にはぐれないこと!」
サワコーチの声に皆が頷いた。
「イチコーチ、出発してもいいですか?」
「あ、ちょっと待って」
イチコーチが遠くを見ながら難しい顔をしていた。
「サワコーチ、少しだけ急ぎましょう。もうすぐ天候が崩れるかもしれません」
「そうですね、気持ち急ぎ目で」
空を見上げたらふわりふわりと小さな粒の雪が落ち、ゴーグルを濡らす。
「じゃあ、出発します! 最初は、あのカーブの手前までよ。そこで全員来るまで待ちます」
私と同じ黄色いビブスをつけたスクール仲間が、サワコーチの後を追う。
「よし、みかんちゃんも出発だよ」
後ろからかかる声に安心して私も皆の後を追う。
冷たい風の中を駆け抜けていく。
私、滑れてる、滑れるようになったよ。
「みかんちゃん、よく曲がれてるし止まれたね」
一つ目的地にまで着くと待っていてくれたサワコーチが拍手してくれた。
この中で一番ヘタクソだったからサワコーチもイチコーチも心配してくれていたんだ。
「このあと、少し入り組んだ箇所になります。距離はそんなに長くはなく勾配もゆるやかですが、少し道幅が狭いのといくつかカーブがあるので皆遅れないように気を付けて。他のスキーヤーやスノーボードの人が隣を駆け抜けていくこともあるので、できるだけコースの端を滑りますよ~! 大きなコースに出たところが次のゴールです」
さっきよりも温度が下がっているのがわかる。
結んだ髪の毛の先が白くなって凍っていた。
少しずつ空の色が灰色になってきてさっきよりも降る雪の粒が大きくなっている。
カーブのたびに前の人が見えなくなって不安になるけれど、後ろにはイチコーチがいるからと安心していた。
幾度目かのカーブを曲がった先で、黄色いビブスの子が転んでいるのが見えた。
「みかんちゃん、先に行って」
イチコーチは立ち止まり、中々立てないでいるその子に手を伸ばしながら、私に先を促した。
「はい!」
慌てて私は前の人を追いかける。
コース横にある吹き溜まりの雪が時折風で舞い上がる。
一瞬何も見えなくなって怖いと感じた。
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