第三章「探し人」

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「どいて――!! お願い」  後ろからそんな声が聞こえて滑りながら振り返ると、スノーボーダーの女の人が勢いよくこちらに向かってくるのが見えた。  慌てて道を作るように、逆側によって止まり、先を譲ると。 「ごめんねえ、ありがとう!!」  必死な顔で通り過ぎていくのを見ると、あの人も私と同じ初心者なのかもしれない。  止まれずにぶつかってしまうことを避けたかったんだよね。  お姉さんの無事を祈りながら、私も先を急ぐ。  今止まってしまったせいで、また皆に遅れてしまったかもしれない。  焦って滑り出そうとした瞬間、また風で舞い上がる雪。  その冷たさから顔を守るよう、両手で頬を塞ごうとした瞬間にバランスを崩してしまった。  さっきまでは山側の端っこを滑っていたけれど、今は違う。  お姉さんを避けるために移動したのは、赤い転落防止用ネットが張られている谷川の方だ。  バランスを崩した私は、谷川へと重心が傾き、転ぶ。  立ち上がろうともがくと、スキーが滑り出す。  お尻で止めようとしても止まらず、どんどん落ちていく。  前にも誰か落ちたのかもしれない。  運悪く転落用ネットが一部破けている箇所を抜けて、滑り落ちていくのに恐怖を感じた。 「たすけて」  声を上げてみたけれど、ホワイトアウトの中に人を捜すことができない。 「たすけて、イチコーチ!!」  ズルズルと滑り落ちて、ようやく止まれたのは大きな木に堰止められたからだ。  結構な距離を落ちた気がする。  スキーを脱いでどうにか這い登ろうとしたけれど、最後に落ちた斜面が急すぎて無理だった。  誰か、気づいてくれるかな?  私がいないことに、気づいてもらえるかな? 「たすけて……、ここにいます! たすけてください!!」  私の声は雪の中に飲まれていくみたい。  灰色になった空からは、雪が舞い降りる。  どんどん降り積もっていく恐怖と、凍えるような寒さ。  私、死んじゃうのかもしれない……。  だれか、たすけて!!
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