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「どいて――!! お願い」
後ろからそんな声が聞こえて滑りながら振り返ると、スノーボーダーの女の人が勢いよくこちらに向かってくるのが見えた。
慌てて道を作るように、逆側によって止まり、先を譲ると。
「ごめんねえ、ありがとう!!」
必死な顔で通り過ぎていくのを見ると、あの人も私と同じ初心者なのかもしれない。
止まれずにぶつかってしまうことを避けたかったんだよね。
お姉さんの無事を祈りながら、私も先を急ぐ。
今止まってしまったせいで、また皆に遅れてしまったかもしれない。
焦って滑り出そうとした瞬間、また風で舞い上がる雪。
その冷たさから顔を守るよう、両手で頬を塞ごうとした瞬間にバランスを崩してしまった。
さっきまでは山側の端っこを滑っていたけれど、今は違う。
お姉さんを避けるために移動したのは、赤い転落防止用ネットが張られている谷川の方だ。
バランスを崩した私は、谷川へと重心が傾き、転ぶ。
立ち上がろうともがくと、スキーが滑り出す。
お尻で止めようとしても止まらず、どんどん落ちていく。
前にも誰か落ちたのかもしれない。
運悪く転落用ネットが一部破けている箇所を抜けて、滑り落ちていくのに恐怖を感じた。
「たすけて」
声を上げてみたけれど、ホワイトアウトの中に人を捜すことができない。
「たすけて、イチコーチ!!」
ズルズルと滑り落ちて、ようやく止まれたのは大きな木に堰止められたからだ。
結構な距離を落ちた気がする。
スキーを脱いでどうにか這い登ろうとしたけれど、最後に落ちた斜面が急すぎて無理だった。
誰か、気づいてくれるかな?
私がいないことに、気づいてもらえるかな?
「たすけて……、ここにいます! たすけてください!!」
私の声は雪の中に飲まれていくみたい。
灰色になった空からは、雪が舞い降りる。
どんどん降り積もっていく恐怖と、凍えるような寒さ。
私、死んじゃうのかもしれない……。
だれか、たすけて!!
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