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山下が欠席した。何でも、私があげたシュークリームに卵の殻が入っていて、それを食べたせいで食中毒になったらしい。本人がSNSで吹聴しまくっているらしく、ついに私の耳にもその話が届いた。ああ、どうして山下なんかにシュークリームをあげてしまったのだろう。クラス内でもイケメンの部類に入る山下。せっかくのバレンタインなんだから、誰かにあげるなら山下かなーと思ってしまった私は大バカ者である。いくら顔面偏差値が高くても性格クズならどうしようもない。だいたい、卵の殻に気づいたなら吐き出せよ。どうしてそのまま食べて食中毒になってるんだよ。ヤツは本物のバカか?偏差値高いのは顔面だけか?!
翌日学校に現れた山下を呼び出し、詫びを入れるとともに聞いてみた。
「だって、食べてやらなきゃかわいそうだろ?」
は?かわいそうって、私が?こいつが卵の殻入りシュークリームを食べたのは私への優しさで、こいつはクズでもバカでもなくて、本物のイケメンだったということ?
山下は薄い唇を震わせながら、声を絞り出すようにして言った。
「せめてちゃんと食べてやらないと、ヒヨコがかわいそうだ――」
山下の頬を、一筋の涙がつたう。きれいな涙だった。美しい泣き顔だった。涙を拭う山下は、鼻水も流さない。絵になる美形とは、山下のためにある言葉だと私は思う。
ただ、その山下の美しい顔は、残念なことに、稀に見るバカ面だった。
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