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「村松くん、学校やめるって……本当に?」
「ああ、本当だよ。黙っててごめん」
教室のロッカーに残ってた荷物を取りに来て、この教室とも今日でお別れかと思っていたところだった。
同じクラスの女子がひとり慌てた様子で教室に入ってきたから驚いた。
「どうして……?あと1年で卒業できるじゃない。村松くん成績良かったよね」
問題は成績なんかじゃない。
父親が経営する会社が業績不振で、両親は離婚し母親は出ていった。
破産するのが目に見えているのに、このままこの学校に通うわけにはいかない。
私立の名門髙と言われている学校をやめるのは惜しいけど、高い授業料を払えなくなるのだから仕方がない。
こんな自分の家族の事情を他人に簡単には話せない。
「この学校にいる理由がなくなった。ただそれだけ」
これ以上のことを言うつもりはない。
さっさと帰ろう。
「待って、村松くん!」
教室を出ようとしたところで呼び止められた。
扉に手をかけたまま立ち止まるけど、後ろは振り返らない。
「また会えるよね、どこかで。……いつかきっと」
そりゃ、生きてたら。
会えないこともないだろう。
黙ったまま片手を上げた。
さよならの代わりに。
そして今度こそ、教室を後にする。
俺の高校生活が終わりを告げた。
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