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1 貴女のことが好きです
校内の喧騒が遠くに聞こえ、ここだけゆっくりと時間が流れているのではないかと錯覚させる空間。
呼び出す場所としてもはやメジャーな場所であろう校舎裏には私と、私を呼び出した男子生徒の姿しかいない。
すらりと伸びた手足、身長は恐らく百八十センチはあるだろう。少し長めの茶色い髪の間に覗く瞳は緊張の色が濃く浮かんでいた。
穏やかな風が一つ吹いて、さぁ、と木々の葉が擦れる音が辺りに響く。まだ咲いていた桜の花が散り、桜吹雪を起こした。
やがて意を決したような表情で、その男子生徒は頭を下げて口を開いた。
「夢野さん、好きです、付き合って下さい!」
そんな漫画みたいなシチュエーションの中、そう告げた彼に、私は。
「ぐぇっ」
彼のお腹を思いっきり殴った。
「な……何するんですか」
苦しそうに腹を押さえるそいつを睨んで私は出来るだけ低い声を出した。
「うるさい、あんたもどうせ名前だけで、私のこと可愛い女子だーとか思ってそう言ってるんだろ」
「違いますよ!」
腹を押さえながらも、そいつは必死な形相で声を上げた。
「何が違うんだよ。私とあんた今が初対面だろうが!」
「えっ……」
そいつが何か言いかけたけど私は既に背中を向けていたからよく聞こえなかったし、聞く気もなかった。
「あ、待って!」
そいつは慌てた様子で私を引き留めようと叫ぶが私はお構いなしにその場を立ち去った。
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