1 貴女のことが好きです

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「えーそれでそのまま帰っちゃったの!?」  翌日の昼休み。私は机を向かい合わせにして弁当を食べていた友人、綾垣(あやがき) (らん)が手を止めて叫んだ。あまりの声量に、教室にいたクラスメイトたちが一斉にこちらを振り返った。 「ちょっと、声大きいよ!」 「ごめんごめん、つい」  蘭は笑いながら止めていた手を再び動かして弁当を食べ進めた。 「だって、会ったこともないやつに告白なんてふざけてるだろ」  私は昨日の怒りを手にしたメロンパンにぶつけるように勢いよく噛みついた。 「まぁ、きぃはそういう恋とかなんとかって苦手だもんね」  蘭は弁当箱の中の黄色い卵焼きを箸でつまみながら納得したように言った。  私のフルネームは夢野きらら。漫画の主人公みたいな名前だけど、本名なのだから仕方ない。私が名前のことを気にしているのを知ってか知らずか、蘭だけは私のことをきぃと呼ぶ。  口の中に入ってたメロンパンを飲み込んで、私は不揃いの短い髪の中に手を差し込んでガシガシと掻きまわした。  美容院に行こうとしても髪を長くさせたい両親がなかなか行かせてくれないので自分で切っているのだ。 「きぃ、お兄さん居たんだっけ」 「うん。二人」 「名前なんだっけ」 「(いずみ)(みさき)」  蘭は最後に弁当箱に残った真っ赤なウィンナーを箸で掴み口に入れると、もぐもぐさせながら「ふーん」と口にした。 「そりゃまた中性的な名前だね」 「羨ましいよ」  メロンパンの入ってた袋をゴミ袋に無理やり突っ込んだ。  両親は三人目に生まれた女の子ということもあってか、かなり期待して女の子向けの洋服やおもちゃを買い与えていた。  でも私は兄の影響で女の子向けの魔法少女とかより、男の子が好むような戦隊物やヒーローに憧れていて、そういう遊びばっかりしてきた。  別に女の子らしいことを否定するわけではない。ただ、私は興味がない。それだけ。 「きぃ、今日駅前寄ってかない?」 「ごめん、今日部活の日だわ」 「あ、今日水曜日だっけ」  弁当を食べ終えた蘭が机の上の弁当箱を片付けながら言った。 「そう。新入生も入ってきたことだし気合入れないとね」  私はペットボトルの麦茶を飲み干した。放課後になればこのもやもやも晴れるだろう。
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