1 貴女のことが好きです

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 私と知佳が向かったのはいつも私たちがお昼を食べていた空き教室だった。どうやら私たち以外使う人は誰もいないようで、教室の中には誰の姿もなかった。 「どうしたの、こんなところで話なんて」  知佳は振り返り笑って尋ねた。それに対して私は真顔で答える。 「私のラケットのことで聞きたいの」 「きららのラケットのことって、この間春山に盗まれた時のこと?」 「そう……」  私は足元に視線をやり、そこで言葉を切った。そしてすぅっと深呼吸して知佳へ視線を戻す。 「私のクラスに、知佳が私のラケットを持って行ったところを見たっていう人がいたの」 「……何それ、ひっどーい」  焦るかと思われた知佳の反応は、予想に反して余裕そのものだった。  まるで、本当に自分がやってないかのような、表情を一つも崩すことはなく。 「なんか、私がきららのラケットを盗んだって言いたいみたいだね。その人」 「……言いたいっていうか、実際に見たって話してたんだよ」  知佳の不満気な声に、私は努めて冷静な声で答えた。 「えー、きらら私じゃなくて、その人の方を信じるの?」 「私だって、知佳のこと信じたいよ。でも、その目撃者が嘘を吐くメリットがない。それと春山が私のラケットを盗んだとして、どうしてそのまま教室に置いていったままだったのか、説明できる?」  私の問いに、知佳はうーん、と指を口に当てて考える素振りを見せた。 「きっと、忘れてたか、きららの気を引きたかったんだよ。ほら、春山ってきららの気を引くのに必死だったじゃん」  知佳は何を思い出したのか、くすくすと笑い出した。私は全く笑えなかったけど。 「それにきららも言ってたじゃん。なんで春山が自分にこだわるのか分からないって。なのにどうして、春山じゃなくて私がやったって思うの?」  知佳の言葉に私はうっ、と言葉を詰まらせた。確かに、子どもの頃からの付き合いの知佳と、出会って数日の春山のどちらを信じるか、なんて客観的に見れば一目瞭然だ。  でも、何となく私には分かる。理屈じゃない。春山はやっていない。 「それは……」 「夢野さん!」  勢いよく扉が開かれ、今まで聞いたことのない大声を出しながら春山が入って来た。急いで来たからか、肩で息をしている。
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