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それから一日が経った昼休み。私たちはまた例の空き教室でお昼を食べていた。
「それにしても良かったねぇ、問題解決して」
蘭が弁当の蓋を開けながら私たちに言った。私は、そうだね、とメロンパンの袋を開けながら答える。一方の春山はなんだか複雑そうな表情だ。
「春山、どうした?」
「いえ……問題が解決したのは勿論喜ばしいことなんですけど……。夢野さんがあんなに木下さんから好かれていたなんて……」
春山はそこまで言うと、手にしていたおにぎりを弁当箱の蓋の上に置いた。
「これは自分、木下さんに負けてられないな、と思いまして」
「なんでそうなるんだ!?」
私のツッコミに春山はニコニコと笑うだけだった。蘭の方を見ると、我関せず、といった表情で弁当を食べていた。誰か何か言ってくれ。
「その必要はないわ!」
その言葉と共に勢いよく扉を開けて入って来たのは知佳だった。その手には何故か弁当が入っているらしい袋があった。
「……木下さん、何か用ですか?」
春山がワントーン声を低くして尋ねる。相変わらず知佳には冷たいな。
「何って、私もここでお昼を食べさせてもらおうって思って来たの」
「え、ここで食べるって、クラスの人はいいの?」
私の問いかけに、知佳は
「うん、ちゃんと話して来てるから大丈夫」
と答える。そういう問題なのか、と私は疑問だったが知佳はお構いなく続けた。
「私、あの一件で春山のことを認めることにしたの。だから小さい頃からきららのことを知ってる私が色々手助けしてあげようと思って」
何故か胸を張る知佳。そんなの春山が認める訳がない……。
そう思って春山の方を見ると、小さい子どものように目をキラキラさせて身を乗り出していた。
「本当ですか!? 是非よろしくお願いいたします!」
「おい!」
思わず私は叫んだ。あまりにも手のひら返しが過ぎないか。
「春山、知佳……」
「まぁまぁきぃ、もう諦めなよ」
二人を止めようと口を開きかけた私の肩に、蘭が手を置いて宥めた。その蘭の肩も、笑いを堪えきれない様子でプルプルと震えていた。
「はぁ……」
思わず溜息が口から出る。私は諦めて手にしていたメロンパンに齧りついた。メロンパンは私の苦々しい思いとは裏腹に、とても甘い味がした。
春山と知佳が盛り上がっている様子を見ながら、これから益々賑やかになりそうだな、と思う。ま、それも悪くないなと思いながら、私は再びメロンパンを齧った。
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