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「では今日はここまで!」
「ありがとうございました!」
放課後の体育館。外は日が落ち、下校の時間が迫っていた。続々と部員が体育館から出ていく後を追って、私が愛用している黒いバドミントンラケットをカバーに仕舞い込んで背負う。
「きーらら! 一緒に帰ろ!」
いきなり腕を組まれてびっくりしてそちらを見ると、同じ部の木下知佳が左腕に絡んでいた。
「知佳」
知佳は茶色の長い髪の毛先を綺麗にカールさせている。ポニーテールにした髪型が良く似合っている。
「今日の練習もきつかったね~」
知佳がラケットが入った鞄を持ち直して溜息を吐いた。
「そう?」
「うん、私もう今日ご飯入りそうにないよ」
そう話しながらすっかり暗くなった道を歩く。もう六時を過ぎているせいか、同じ学校の学生の姿はあまり見られなかった。
「知佳、ちょっと歩きにくい、離して」
「えー少しくらいいいじゃん」
妙に距離が近いこの子、知佳は保育園からの付き合いで、所謂幼馴染というやつだ。昔から距離は近かったけど、最近益々近くなっているような気がする。
知佳は文句を言いながらも渋々手を離す。
その後もクラスの話や部活の先輩の話などをしながら帰路に着く。
「そういえばきらら、昨日も告白されたって?」
「え、誰から聞いたの? まぁそうだけど、いつものあれだよ。名前だけで判断してるんだよ、初対面だったし」
苦々しく吐き捨てる私とは裏腹に、知佳は「ふーん……」としか言わず、黙り込んだ。
だがそれも一瞬のことで、すぐに知佳は笑顔に戻った。
「あはは、きらららしいね!」
「……?」
知佳の一瞬の沈黙が気になったが、気にしないことにした。
「きらら、また自分で髪切ったでしょ」
知佳が私の髪に手を触れて、呆れたように口にした。
「だって親が短くさせてくれないんだもん。自分で切るしかないじゃない」
「長いのもきっと似合うと思うけどなぁ」
にこっと笑い、知佳は私の髪の先を眺めた。
そんなやり取りをしていると家に着いた。お互いの家は目と鼻の先で、私の家の前で別れた。
「じゃあね、きらら、また明日!」
「うん、じゃあね」
私は軽く知佳に手を振って家に入った。玄関前で知佳がこちらをじっと見ていることに、私は気付かなかった。
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