1 貴女のことが好きです

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「では今日はここまで!」 「ありがとうございました!」  放課後の体育館。外は日が落ち、下校の時間が迫っていた。続々と部員が体育館から出ていく後を追って、私が愛用している黒いバドミントンラケットをカバーに仕舞い込んで背負う。 「きーらら! 一緒に帰ろ!」  いきなり腕を組まれてびっくりしてそちらを見ると、同じ部の木下(きのした)知佳(ちか)が左腕に絡んでいた。 「知佳」  知佳は茶色の長い髪の毛先を綺麗にカールさせている。ポニーテールにした髪型が良く似合っている。 「今日の練習もきつかったね~」  知佳がラケットが入った鞄を持ち直して溜息を吐いた。 「そう?」 「うん、私もう今日ご飯入りそうにないよ」  そう話しながらすっかり暗くなった道を歩く。もう六時を過ぎているせいか、同じ学校の学生の姿はあまり見られなかった。 「知佳、ちょっと歩きにくい、離して」 「えー少しくらいいいじゃん」  妙に距離が近いこの子、知佳は保育園からの付き合いで、所謂幼馴染というやつだ。昔から距離は近かったけど、最近益々近くなっているような気がする。  知佳は文句を言いながらも渋々手を離す。    その後もクラスの話や部活の先輩の話などをしながら帰路に着く。 「そういえばきらら、昨日も告白されたって?」 「え、誰から聞いたの? まぁそうだけど、いつものあれだよ。名前だけで判断してるんだよ、初対面だったし」  苦々しく吐き捨てる私とは裏腹に、知佳は「ふーん……」としか言わず、黙り込んだ。  だがそれも一瞬のことで、すぐに知佳は笑顔に戻った。 「あはは、きらららしいね!」 「……?」  知佳の一瞬の沈黙が気になったが、気にしないことにした。 「きらら、また自分で髪切ったでしょ」  知佳が私の髪に手を触れて、呆れたように口にした。 「だって親が短くさせてくれないんだもん。自分で切るしかないじゃない」 「長いのもきっと似合うと思うけどなぁ」  にこっと笑い、知佳は私の髪の先を眺めた。   そんなやり取りをしていると家に着いた。お互いの家は目と鼻の先で、私の家の前で別れた。 「じゃあね、きらら、また明日!」 「うん、じゃあね」  私は軽く知佳に手を振って家に入った。玄関前で知佳がこちらをじっと見ていることに、私は気付かなかった。
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