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番外編1
あの人が、私の目の前にあの子を連れてきたとき、すぐにわかった。
あの女の目にそっくりだ、と。
あの女は昔から私と趣味や動向がそっくりだった。
習い事のピアノでは次の課題曲を選べば、なぜか彼女も同じ曲を練習していたり。
美術の授業で選ぶモチーフが被ったり。
そういえば文系と理系の選択をしたときも、全く同じ選択科目だったっけ。
志望する大学の順番も一緒、考える就職先も一緒。
唯一違ったのは、彼女の方が私より必ずいい結果が出ることだった。
ピアノを私よりも上手く弾き、美術のデッサンでは校内で表彰されていた。
テストの成績は私よりもずっとよくて、彼女は私の落ちた第一志望に入学。
就職先だって私の就職先の競合で、業界1位のところ。
結婚だけは私の方が先で、私はこれ以上ないという男性と出会った。
なんとなく、彼女にだけは会わせたくなくて、最後の最後まで紹介しなかった。
きっと大丈夫だろうと会わせた、結婚式の打ち合わせ、あの瞬間は今でも忘れない。
それでも旦那は彼女のことを忘れて過ごしていてくれたため、安心し切っていた。
もうあの女と接点を持たなければ、大丈夫、そう過信していた。
だから、遥が目の前に現れたとき、動揺した。
あの女と同じ目をしたこの子どもは一体私から何を奪って行くのだろう?
「ねえ、愛梨ちゃんは私のこと嫌い?」
ある日、薫は私にそう聞いた。
「なんでそう聞くの?」
「だって、いつも私ばっかりなんかもらっちゃうんだもん……」
そう言う彼女の手には、賞状が握られていた。
「ううん、そんな薫が誇らしい友達だと思うよ」
「本当?」
別に賞状なんていらないし、そこそこに生きていければいいやって思っていたし、あまり薫が羨ましいとも思ったことがなかった。
「よかった!私ね、愛梨ちゃん大好きなの!嫌われたらどうしようって思ってた!」
本気で安堵する彼女をみて、私は驚いた。
薫は可愛いし頭もいいしこうして表彰されることもしょっちゅうだったから、私以外にも仲のいい友達はたくさんいた。
だから私1人が別になんと言おうと、邪険にされるのは私の方だと思っていたのだ。
それ以降、すっかり安心したのか薫はますます私にベッタリとくっつくようになった。
それも高校卒業とともに終わりかと思ったが、大学に入っても、大学院に行っても、就職しても、彼女は頻繁に私に会いにきた。
「私愛梨ちゃん大好きだから、ずっと仲のいい友達でいたいの」
笑顔で毎回言う彼女の姿に、私は少しずつ怖くなっていた。
結婚することを報告したときの彼女の顔は忘れられない。
「愛梨ちゃん、結婚しちゃうんだ……愛梨ちゃんは結婚とかしないと思ってた……」
ショックを受けている彼女に私は困惑した。どうしてそこまで悲しい顔をするのだろう。
友達ならもっと喜んでくれるのが普通ではないだろうか。
「じゃあさ、結婚式のスピーチ私にやらせて?」
「あ、うん……それはいいけど……」
「うん、早く愛莉ちゃんの旦那さんにも会いたいな」
このときに感じた違和感は、のちにたしかなものとなる。
旦那は遥がこの世に生まれてきたことは、自分と薫の間で起きてしまった間違いだと言った。
でも私はあの女はわざと旦那と事に至ったのだと知っている。
薫が事故に会ったと聞いてすっ飛んで行った旦那は遥を連れて帰ってきた。
実はその後、家宛に薫から手紙が届いたのだ。
『愛莉ちゃんへ 実は愛莉ちゃんが結婚してからずっと考えていたのです。どうしたらずっと愛莉ちゃんと共に入れるのかなって。私は女だから愛莉ちゃんとはどうにもなれないから。だから、私の遺伝子を愛莉ちゃんのところに送ればいいのかなって思いました。今度届けるね。』
私はその手紙を破り捨てた。恐怖で身体中が震えた。
ベビーベッドで何も知らない顔で眠る遥を見て私は懇願した。
どうか、何も奪わないで、と。
この子はあの女とは違う、違うとわかっていても、どうしても目を見ることができなかった。
どうやって、この子を愛していけばいいのだろうか。
私はいまだに結論を出せずにいる。
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