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兄の龍太郎として、可愛い弟の最期を見るのはいたたまれない、同時に、兄に殺される弟虎次郎の、あのときの気持ちが蘇ってくる。
気が狂いそうな思いが駆け巡り、俺は頭を抱えて絶叫していた。
虎次郎が着水する音が遠く響いた。
まだ、まだやらなきゃならない。
俺は震えながら歩き出した。
崖の下から少し離れた、周囲から見えにくい入り江の部分に、奇跡的に一命をとりとめた俺が漂着するのだ。
そのまま放っておいて、助かられてしまっては困る。
先回りして待っていると、潮の流れに乗って意識を失った虎次郎が漂ってくる。
待ちきれず俺は海に入り、襟をつかんで引きずり、砂浜に上げた。
さあ、殺せ!止めを差すんだ!この時の俺をきっちり殺さなければ、今の俺は無いんだ!
俺は大きめの石を拾い、腕を振り上げた。
さあ殺せ!今は殺すことになっても、それがこいつ自身の未来をつなぐことになるんだ!
殺せ!
頭が混乱して叫び出しそうになるが、喉に力が入りすぎて声が出ない。
振り下ろすべき手は震えて狙いが定まらない。
逡巡している間に、俺が目を覚ました。
立ち上がり、その場を離れようとする、その俺の腕を、俺は掴んだ。
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