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「ダメだよ逃げちゃあ、せっかく戻ったのに悪いけど、きっちり死んでくれないと困るんだ」
必死に絞り出した声は裏返り、妙なトーンになっている。
この声を、あのときの俺は、へらへらと笑いながら声をかけられたように感じていた。
「奇跡的に一命をとりとめてここに打ち上げられるのはわかってたんでね、待ってたよ」
待ってたんだよ!可愛い弟を殺してしまったことが信じられなくて、夢ならいいのにって思いながらっ!
いろいろしゃべり出すと泣き崩れてしまいそうだから、そんなふうにしか言えなかったんだ!
俺が俺の手を振りほどこうとする。
だが、そんな力は無い。
じたばた抵抗されたら、余計に辛くなるじゃないか!
おとなしく死んでくれよ、頼むよ!
「はい、今度こそ頼むよ」
泣きながら俺はそう言った。
目を瞑って思い切り石を振り下ろす。
硬いものにぐしゃっとめり込む感触が伝わり、吐きそうになる。
早く止めを差さなきゃ!弟を、俺を苦しませたくないっ!
二度、三度と石で殴り付け、倒れ込んだ俺を引きずって海に放り込む。
岸から離れていく潮の流れにうまく乗ったのか、すぐに姿が見えなくなった。
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