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夏の夜空を震わせるように再びコォーン、と声が鳴り響く。聞いた二竜が天を仰ぎ、二人の巫女は小さく顔を見合わせた。
「……呼んでるねえ」
「そうだねえ」
星空を映したような黒目が二対、リリとリラを振り返った。二人は笑顔のまま頷く。
「ここからは、仲間と一緒に行くの。この空の上であなたたちを待ってるから」
「それで来年、大きくなってまた戻ってきてね」
たとえ、お互いの姿を見られるのはこれが最後だとしても。
来年の夏が賑わえば、夏竜が立派に育ったことの証になる。托卵の巫女の役目はそれを信じて見送ることだ。
新緑色と夕焼け色の仔竜が、満天の星空へ向かって飛翔する。
夕焼け色の仔竜は宙を駆ける勢いは良いが、急にバランスを崩しがちだった。それを落ち着いた様子で飛ぶ新緑色の仔竜が寄り添うように支えて、共に星空の世界を目指してゆく。
「行っちゃったねえ」
「そうだねえ」
その姿を最後まで見上げるリリとリラは、小さく笑いながら頬にはらはらと伝う涙を拭った。
星明かりに照らされた火竜と木竜が、夏の夜空に緩やかな軌跡を描く。
来年は日差しに恵まれ、作物が豊かに実る良い夏になることだろう。
―了―
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