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たどり着いた物見台で身体を休めたリリとリラは、辺りが暗くなると手すりに近づいてそっと空を見上げた。
水気を含んだ風が野を渡ってゆく。湿った空気は暑くもないし肌寒くもない。藍を刷いたような空に星々が瞬きだすと、どこからともなくコォーン、オォーンと、硬質な響きがいくつも降り注いできた。
「これが、竜の声なんだねえ」
「うん、この卵たちを呼んでるんだ」
頷いたリリが卵を見下ろした。真白の帯からのぞくなめらかな殻に触れながら、そっと唇を開く。
「……みんなが、あなたを待ってるよ」
卵を優しく撫でながらリリは語りかけた。
「神殿で教えてもらったの。どうして竜は、大切な卵を私たち人間にわざわざ預けてくれるのか」
隣に立つリラが、同じように卵を撫でながら言葉を続けた。
「竜って、成長するとすごく大きくなるから、人の側では暮らせないんだって。近づいただけで人を傷つけてしまうから、空のぎりぎりまでしか来ちゃいけない決まりになってるんだって」
「だから年に四つ、トコワ国を旅して人間と触れ合うことのできる卵は、竜の中でも羨まれるくらいの特別なんだって」
リリの抱える卵はその特別を二度経験してきた。旅の前にリラと相談して、孵化の旅路は去年と全く違う道を選ぼうと決めたのだ。
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