星空と竜の原

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「生まれる前に、世界につらいことがあるって知ってしまったのは悲しいけれど。この世界にはきれいなものも、楽しいこともいっぱいあるんだよ」 「美味しいものもいっぱいだったよねえ」  リラが笑うと、抱えられた卵も同意するように大きく揺れた。その様子を見たリリが目を細める。 「……それに、あなたは一人じゃない。一緒に生まれてきてくれるきょうだいがいるんだから」  うんうんと頷いたリラが言った。 「二人って良いこといっぱいだよ。もし『桜餅と苺大福どっちにしようかな?』って悩んだ時、一人だったらどっちかしか選べないけど、二人だったら一個ずつ選んで半分ずつ食べられるの」 「大変なことがあれば支え合えるし、嬉しいことがあったら分け合える。そんなきょうだいが、いつもあなたの側にいてくれるから。たくさんの人とたくさんの竜が、私とリラが、あなたたちが生まれてくるのを待っているから。だから──」  空から降り注ぐ竜の声が止んだ。  星空の下、リリとリラが肩を寄せる。小さく息を吸うと同時に唇を開いた。 「「”──生まれておいで、愛しい仔”」」  二人の声が吸い込まれるように卵に響く。  ピシ、と。  リリの抱える卵の表面に亀裂が入った。  ──クゥ。  大きく割れた卵殻の奥から、新緑色の鱗に覆われた頭がおずおずと顔をのぞかせた。  星空を散らせたように輝く黒目と、額に生える薄桃色を帯びた二本の小さな角。リリは優しく笑った。 「木竜の、女の子だったんだねえ」 「こっちは火竜の男の子。ふふ、ずっと元気だったからそんな気がしてた」  そう言ったリラの周りを飛び回るのは、夕焼け色の鱗に金味を帯びた角の仔竜だった。 「ちゃんとお姉ちゃんが出てくるまで待ってて、偉かったねえ」  リラがひんやりとした鼻先をちょんとつくと、クァと小さく仔竜が鳴いた。
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