托卵の巫女

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 リリとリラが食事を終えると、食器を下げた店主から食後の茶が出された。翡翠(ひすい)を溶かしたような上品な色を一口含めば、渋みの少ない甘やかな味わいが舌の上に広がる。 「あ、これ新茶だねえ」  夏の夜空に似た黒瞳(こくとう)で二人が見上げると、店主が笑顔で頷いた。 「ええ、せっかく托卵(たくらん)巫女(みこ)さまがお立ち寄りくだすったんです。ひとっ走りして一番良い茶葉を買ってきたんでさぁ」  店主の言葉を聞き、双子の顔が花咲くようにほころぶ。 「わあ、嬉しい!」 「ありがとうございます!」 「いえいえ、こちらこそ、どうか……」  笑みを収めた店主は、二人に向かって深々と頭を下げた。 「……どうか、来年の夏竜さまをよろしくお頼みします」  切実な声で告げられた二人は互いの顔を見合わせた。 「では、お集まりの皆さま方」  頷いた双子の片方、リラが笑顔で辺りを見回す。 「今日の良き日のこの良き時に、皆さまとお会いできたのも四季竜とのご縁があってのこと。どうか新たに生まれます夏竜の仔に祝福の言葉をおかけくださいませ」  静かに食事を見守っていた人々の間からさざ波のような歓声が広がった。  店主と共にリラが座敷の手前まで進みよる。人々の視線はその腹に抱えられたものに注がれていた。  真白の布に金糸で祝福の刺繍がほどこされた腹帯。その中には、人の頭よりもやや大きな白い卵が収められていた。 「では、店主さんから」 「ああ、ありがたや。……どうか、無事にお生まれなさってください」  震える手で殻に触れた店主は祈るように囁いた。  リラに向かい、人々はわらわらと列をなしてゆく。それはすぐに店を越えて表通りにまで伸びていった。 「竜の卵は繊細です。言葉や気持ちは殻を越えて伝わりますので、慌てず焦らずでお願いしますねえ」  座敷の奥からリリがおっとりと声をかける。その腹部に抱えたもう一つの卵を撫でながらそっと目を伏せた。
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