托卵の巫女

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 行列はしばらく途切れることがないだろう。リラに任せて新茶の湯飲みを傾けていたリリはふと窓の外に目を向けた。  通りの向こうに一人の母親が立っていた。赤ん坊を背負い、小さな娘を連れている。リリは微笑むと、息をのんだ様子の母親に向かって小さく合図をした。  (かわや)に行く素振りで席を立ったリリは、袖口の鈴を押さえながらそっと店の裏へと回った。  裏口には先ほどの母親の姿があった。みなリラの卵を言祝(ことほ)ごうと表通りに並んでいるので他に人の気配はない。 「こんなに小さな子たちがいたら、行列なんて並んでいられないですからねえ」  リリがおっとりと言うと、母親は感激したように口元を覆った。 「あ、ありがとうございます」 「お礼なんて。たくさんの人にこの()を祝ってもらうことが托卵の巫女(わたしたち)のお役目ですから」  リリがそっと膝を折った。不思議そうな顔をしている幼い少女に微笑むと、腹帯に包まれた卵を撫でながら穏やかな声で言う。 「ここにねえ、来年の夏を見守ってくれる夏竜さまがいるの。だから、元気に生まれてきてねって、あなたもお祝いしてくれる?」  娘が母親を見上げた。母親が頷くのを見ると、卵の上にそっと小さな手を乗せる。すべすべとした感触に目を丸くしながら、少女はたどたどしい声で卵に言った。 「こわくないよ、うまれてきてね。……みんな、まってるから」  コトリ、と小さく卵が震えた。
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