孵化の旅路

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孵化の旅路

 イツミの町は、トコワ国の南東に広がる平地の中の町だった。  藤の花がたおやかに下がる川辺に座り、リリとリラは町に到着したばかりの足を休めていた。二人が手にした木の椀からは爽やかな花茶の香りが漂っている。 「良い天気だねえ」 「そうだねえ」  花茶で喉を潤した二人は同時にほぅ、と息を吐いた。  見上げた視界には薄紫の花房(はなぶさ)が揺れる。花びらがゆるりと舞って水面に落ちると、穏やかな流れに押されて川を滑り下りていった。 「ねえリリ、今日のお昼は何を食べよっか?」  川を眺めていたリラがきらきらとした眼差しで隣に座る少女に尋ねる。 「そうだねえ……」  花茶を置いたリリは抱えた卵をそっと撫でた。 「そういえばここまで来る途中に、キャベツ畑があったねえ」 「春キャベツかぁ……」  二人はしばし想像を巡らせると幸せそうに顔をゆるませた。 「ふわふわキャベツの花焼売、とか?」 「お肉とお味噌で炒めるのも美味しそうだねえ」 「デザートは何にしようか?」 「タロイモ団子か、豆花(トウファ)か、それとも……」  理想の昼食を話し合う二人の耳にふと、ガラガラと車輪の音が届く。振り返れば土手の上を氷菓子の移動屋台が横切るところが見えた。 「……せっかくだから、先に食べちゃおうか」 「冷たい氷菓子、大好き」  二人は顔を見合わせると揃って笑った。
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