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雨天
トコワ国の東端、ココヨの町。
生暖かい曇天の下、リリとリラは町外れにある小さな石碑を訪れた。
まだ建てられて新しい石肌の周りには何本もの花が供えられている。供養の石碑、それは一年前にこの町で命を落とした托卵の巫女の魂を鎮めるためのものだった。
手にした姫菊の花を石碑に供えると、リリの腹に抱えられた卵がカタカタと細かく震えた。無言で卵を撫でたリリが空を見上げる。
強い風にあおられる灰色の雲からぱたりと一つ、大粒の雨が滴り落ちた。
降り出した雨は三日三晩止むことがなかった。二人はその間、ココヨの宿で過ごすことになった。
「止みませんね、雨」
茶を運んできた宿の女将にリリは申し訳なさそうに笑った。
「すみません、こんなに長居をする予定ではなかったのですが」
「ああ、いえ、それは全然。巫女さま方のお役に立てるなんて喜ばしいことですから」
女将はそう言って、娘のような年をした二人の少女を眺めた。
神託によって選ばれ、最低限の知識とふるまいだけを詰め込まれ、トコワ国の希望を一身に背負って旅することとなった少女たち。辛くないはずはないのに、彼女たちの顔から日だまりのような笑みが消えることはない。
女将はぎゅうと目を細めた。
「あたしらにできることがあったら、なんでも言ってくださいね」
二人はきょとんと顔を見合わせると、すぐににこりと笑って言った。
「じゃあ、今日の夕飯は鮎の塩焼きが食べたいです」
「あと、茄子のお漬物も。ここのお漬物すごく美味しいねって昨日リリと話してたんです」
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