托卵の巫女

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托卵の巫女

 開け放たれた窓の外から、暖かい風に運ばれて菜の花の匂いが入りこんでくる。  トコワ国の南西、ナナミの町の食事処。  昼前だというのに多くの人が押し寄せる店内は、しかし押し殺したような静けさに包まれていた。老若男女が固唾をのんで見つめるのは奥にある一段高い座敷席。そこでは──。 「店主さん、山菜汁のおかわりをください」 「それから、そら豆と海老の炒めを追加でお願いします」  十四、五才ほどに見える少女が二人、満面の笑みで椀を手にしていた。  おそらく双子だろう。その顔立ちは鏡に映したようにそっくりだった。身につけているのは白と(だいだい)を基調とした夏神殿の巫子(ふし)装束で、(うすぎぬ)に花刺繡を散らせた上着を羽織っている。長箸を動かすたびに袖についた鈴がカラコロと控えめな音を鳴らした。 「はい、お待ちどおさまです」  注文の品が卓に乗ると、二人がわぁと歓声を上げた。  湯気の上がるそら豆はちょうど良い塩味がつけられ、弾力のある海老との食感も合う。刻まれた大蒜(にんにく)の匂いも香ばしく、ちょんと添えられたタンポポの花弁は皿の上に春らしい彩りを加えていた。 「美味しいねえ、リラ」 「そうだねえ、リリ」  長箸を口に運んだ二人は幸せそうに顔を見合わせた。
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