17 今夜は最高の夜だ

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 つきあう?  そんなこと、現実には考えてなかった。いや、考えていなかったわけではない。けれど、子供が将来の夢をオリンピックで金メダル! と言っているのと同じレベルの妄想だ。 「い……池井さん? 大丈夫ですか?」  座り込んだ俺の顔を鈴が心配そうにのぞき込む。  この人と付き合えるってこと?  一人占めして。  特別に優しくして。  甘やかして。  四六時中、好きでいてもいいってこと?  考えただけでかっ。と。顔が熱くなった。いきなり喉の奥が痛くなって、視界がぼやける。  自分が泣いていると気付いたのは、地面に落ちた雫のあとが目に入ったからだ。 「池井さん……その。迷惑でした? そうだったら、きっぱり断ってください。池井さん優しいから、気を使ってくれたら、勘違いしてしまいそうだから」  そんなことを言ってふ。と、寂しそうに笑う鈴。自分もそうだったから気付いてなかったけれど、鈴の手も小さく震えていた。  きっと、鈴だって俺と同じように悩んだんだと、その表情で分かる。鈴があんまりにも出来過ぎた王子様だから、不安なんてないと勘違いしていた。  でも、違った。  鈴は俺よりも年下で。まだ、学生で。人付き合いが得意ではなくて。愛想笑いが苦手で。感情表現も苦手で。真面目で、優しいただの男だ。 「……でも。迷惑はかけないから。今までみたいに……友達ではいた……」 「俺も好きだ」  だから、真摯に、真っ直ぐに伝えてくれた言葉には、俺も真剣に答えないといけない。  ぎゅ。と、鈴の手を握り返す。それから、そのまま、立ち上がる。完全に足から力が受けていると思っていたけれど、驚くほどすんなり立ち上がることができた。 「何の取柄もないし、鈴君には釣り合わないけど……俺は。鈴君の……恋人になりた…、い」  鈴の目を見て、そう言うと、言葉が終わらないうちに、鈴の腕に包み込まれた。 「……ああ。も。今日は、最高の日だ」  耳元に鈴の声が聞こえる。その声が少し震えている。  それが、堪らなく可愛いと思った。  だから、俺も、精一杯、鈴の背中に手を回して、抱きしめた。  鈴の肩越しに見える月が、とても綺麗な夜の出来事だった。
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