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「でも、鈴の気持ち伝わったみたいでよかった」
「え?」
聞き捨てならない言葉に俺は思わず聞き返した。
鈴は俺たちのこと風祭さんに話してるんだろうか。確かに風祭さんは川和さんと付き合っているくらいだから、バレても問題ないのかもしれないけれど、鈴が誰かに恋愛相談しているなんて想像がつかない。しかも、LINEを返さなかったのなんて、ほんの二日くらいだ。冷静な鈴がそんなことくらいで『5分おきにため息』なんて、冗談としか思えない。
「僕が冗談言ってると思ってる?」
また、ふふ。と、笑いながら、俺の考えていることを見透かしたように風祭さんは言った。その笑いは決して嫌な感じではなくて、まるで、可愛らしい子供の姿を見ているような優しい笑い方だった。
「別に、鈴が僕に何か言ったわけじゃないよ? でも、鈴のことは赤ちゃんの頃から知ってるからね。
秋くらいかな。誰か好きな人できたのかな。とか、思ってたけど。鈴がバイトの時に池井君が店に来て。すぐにわかったよ。長い付き合いだけど、あんな顔見たことなかったし」
風祭さんは、そう言って、また、紅の頭を撫でる。まるで、『そうそう』と、同意するように紅はにゃあ。と。緑は耳をぱたぱた。と。紺は、しっぽで俺の腕をするり。と撫でた。
「鈴は昔からあんまり感情表現が豊かな方じゃないし。あんな感じだから、近づいてくる人は多いけど、基本無関心だし。このまま誰も好きになったりしないんじゃないかって思ってたから、なんか、兄代わりとしては嬉しくて」
何故か少し照れたように風祭さんは言う。きっと、彼は鈴のことを本当に家族のように思っているんだろう。
「僕が言うことじゃないかもしれないけど……。鈴はきっと池井君を宝物みたいに大切にしてくれるから、池井君も鈴のこと大事にしてあげて?」
風祭さんの言葉に俺は頷いた。世界がみんな鈴への気持ちを否定しているような気でいたのが、恥ずかしい。うまくいかないもどかしさで、気持ちが弱くなっていた。けれど、こんなに近くに心強い味方がいてくれた。それが、嬉しくて、なんだか、少し。少しだけ、うるっときてしまった。
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