18 かの思想家が語るには

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「それから。これ」  と言って、風祭さんがカウンターの上に今度は水晶らしき石のキューブのついた指輪と、鈴と紫色の石が付いたストラップを置いた。  そのどちらにも俺には見覚えがある。  ストラップの方はもちろん俺のものだ。あの日失くしたストラップを何故風祭さんが持っているんだろう。  そして、もう一つは鈴が彼女に好きだと言っているのを見てしまった日。あの日に彼女がつけていた指輪だった。 「これを。どうして僕が持っているかは言えないんだけど。  この指輪は君を襲った犬の犬小屋みたいなものだよ。これを使って呪いを送るんだ。彼女はこの中のものと彼女の何かを与えると約束して、君を襲わせた。まあ、これは今は空だから心配しなくていいよ」  いろいろ、いろいろ。言いたいことはあった。でも、俺の口から出たのは、呪いのことじゃなかった。 「風祭さん。あれ。見えるんですか?」  俺の方向違いの質問に、風祭さんは一瞬きょとん。としてから、ぷ。と、小さく吹き出した。 「そこ? ま、いいや。池井君は周りにそう言う人いなかったんだね。そういう人もいるよ。突然変異っていうやつかな。でも、こういうのは結構いるところにはいるもんなんだよ。ただ。確かに絶対数も少ないし、こういう特異体質って大抵は遺伝だから、鈴や僕の母の家系にはすごく多いんだよ」  ずっと。俺は、自分がおかしいんだって思ってた。俺の頭か目がおかしいからあんなものが見えるんだって思ってた。  はじめて、そうじゃないと言ってくれる人とあった。それは、俺にとって、嬉しいとか、安堵したというより、単純な驚きだった。 「てか。さ。鈴。そのくらいは、ちゃんと説明してあげなよ。池井君みたいに周りに同類がいない人ってすごく悩んだりするんだよ?」  じと。っと、鈴を睨んで、風祭さんが言う。  確かに、分かってるなら言ってほしかった。俺がおかしいとか、おかしくないとか言うことよりも、鈴が見えることを俺に隠しているのは何故なんだろうかということが、俺の悩みの種の一つになっていたことには間違いなかったから。 「いや。それは……」  風祭さんの質問に鈴は分かりやすく難しい顔をして黙り込んだ。何か、重大な理由でもあるんだろうか。 「鈴君」  無理に何でも聞き出そうとは思わない。でも、もし、鈴が何か遠慮したり、気を使っているならちゃんと言ってほしかった。無理していると必ずどこかでしわ寄せが来たりするから。そんなことで、鈴と気まずくなったりしたら嫌だから。 「……恥ずかしかったんです」  気まずそうに視線を逸らして鈴は言った。
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