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「恥ずかしい?」
けれど、言われている意味が分からなくて、俺は問い返す。
「……呪いとか、特殊能力とか。まんま中二病じゃないですか。そんなこと話して、池井さんにドン引きされたくなくて」
「そんな……こと?」
思っていたのとは、随分とかけ離れた答えに、俺は思わず呟いてしまった。言ってから、しまったと思ったけれど、もう、遅い。
鈴は苦虫をかみつぶしたような顔になる。眉間に皺を寄せて、口角を下げて、目線は逸らしたまま。まるで拗ねている小学生だ。
「や。そんなことって。ただでさえ、池井さんの方が年上だから、俺ガキ扱いされてたし」
確かに『霊の姿がみえます!』とか、『あなたは呪われてます』とか、あって間もない人に言われたら、『うあ。中二かよ?』って思うかもしれない。だから、まあ、話したくない理由は理解できた。
自分は特別です。なんて、自慢できるのは、ガキの頃だけで、社会に出たら、変人扱いされるのを恐れて、隠しておきたいのが、普通だろう。いや、中には自慢する人もいるけれど。
まあ、それはさておき、俺は鈴を子供扱いした覚えなんてなかった。普通に恋愛対象として見ていたのに子供扱いなんてするわけがない。
「ガキ扱いなんてしてないよ?」
大体、鈴は同じ年頃の子と比べても落ち着いていて、子供扱いする余地なんてなかった。それどころか、いつも迷惑かけるのは俺の方だったと思う。
「マフラー貸してくれたときも、首に巻いてくれて『寄り道しないでかえりなよ?』とか言うし。
すげえ緊張してあのLINE送ったのに、スルーされるし。それなのに、あったら変わりなく笑ってくれるし。
意識してほしくて、手握ったりしても、普通のことみたいに流されるし。
完全に遊ばれてると思ってました」
少し拗ねたような顔にみぞおちのあたりが、きゅっ。と、押さえつけられるみたいな感じ。いわゆる、きゅんとするってやつだろうか。
あんな冷静そのものの顔で鈴がそんなことを考えていたなんて、じたばたしたくなるくらいに、かわいい。なんて、言ったらまた、子供扱いだって拗ねるんだろうか。
バイクのことみたいにさらり。と、カッコいいことを言うくせに、カッコつかない子供みたいなのはところを不意に見せたり、狙ってやってるならズルい。ってのは、アイツの言葉だったっけ。
「そんなに人生経験豊富じゃないよ……。LINEも嬉しかったけど、勘違いだったら恥ずか死ぬと思って、なんも返せなかっただけたし」
今回のことで、鈴が思ったよりずっと『普通』の大学生なのがよくわかった。それから、俺は、俺自身が思ってたより、ずっと臆病だということも、わかった。
相手の思ってることなんて、言葉にしたって伝わりきらないのに、言葉にしなきゃ伝わらないって、当たり前のこともよくわかった。
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