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「とにかくね。君は呪われていたんだ。ここまではいいかな?」
いいかどうか、分からない。正直、きちんと理解しているとは言い難い。けれど、今は、頷く。そうなんだな。と、思うしかない。
「うん。ま、納得はできてないだろうけど、そういうもんだと思って聞いてよ。
呪いなんて、普通に考えて簡単にかかるもんじゃないよね。あいつが嫌い! くらいで呪われてたら、日本人絶滅してるよ。だからね。手順とか、呪いを成功させるためのアイテムが必要なんだよ。これね」
指輪を指でつまんで、風祭さんは言った。
「それから、呪う相手に纏わるものが必要なんだよ。ほら、わら人形に髪の毛入れるとかアレ。それがコレ」
差し出されたストラップを俺は恐恐受け取る。
「でも、これ、どっちかっていうと、鈴君の方が関係あるような……」
風祭さんが『大丈夫』と、言うからしっかりと受け取ってまじまじと見つめる。確かに鈴にもらったものに間違いない。間違いないのだけれど、何かで赤黒く染みができていた。落とす前にはなかったと思う。
「うん。ストラップはおまけかな? 多分、鈴があげたものを持っていさせたくなかったんじゃないかな? まあ、これはただの想像だけど」
それから、彼は細い指先をストラップに向けた。
「必要なのはこれ。間違いなく、池井君の血だよ」
風祭さんの言葉にぎょっとする。
「呪いの材料としては、もってこいだから」
妙に真剣な顔。今までの子供に話して聞かせるような優しい響きではなかった。
警告。
なんだと、思う。
「池井君。これを失くした頃に怪我とかした覚えない?」
真剣な顔のまま、風祭さんが言う。その言葉に思い出してみると、一つ。思い当たることがあった。
「確か、図書館で、利用者さんにぶつかって。女の人だったな……確か……あれ?」
同級会のあった日。仕事中に誰かとぶつかって、ファイルの端で手を切った。もう、傷も残っていないけれど、そのことは覚えている。それなのに、思い出せない。
「……呪いの子だったっけ? 確か、長い髪で。創元館の制服。着てたけど……顔が思い出せない」
確かに顔は見たはずだし、ハンカチで傷を拭ってもらった記憶もある。服装は制服で、見た目にも女子高生くらいの歳だろうと思った記憶もある。それなのに、顔に靄がかかったようで思い出せない。
いや、こうして考えていると、呪いの子の顔だった気もしてくるが、ちょうど戌井の顔が曖昧で何度会っても会うたびに忘れていたように、その子の顔も見ればそれと答えられるのに、いざ思い出そうとすると思い出すことはできない。呪いの子だったのではないかと、想像すると、それは呪いの子の姿に見えるのだった。
「池井君。無理に思い出さなくてもいいよ」
考え込む俺を、宥めるみたいに風祭さんが言った。
「それは多分答えは出ないよ。
ただ、もう、無くさないようにね」
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