第3章:身体頑健

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 もう一つ、就寝・起床動作練習について。海軍のモットーは迅速(Smart)確実(Steady)静粛(Silent)とされておりまして、それぞれの頭文字をとり『三S精神』と呼んでおります。これを達成するための訓練として我々三号生徒は起床時、就寝時の一連の動作を何度も何度もやるわけです。毎日寝る前に寝起きの練習です。 「静かにしろッ!」  天城先輩が竹刀を持った一号数名を従え部屋へやってきた。 「今から三S精神に則り就寝動作練習を行う。二分三十秒を切らねば完遂まで寝られるとおもうな! 用意、はじめッ!!」 「はいっ!」  私たちは慌ててベッドの足側に重ねていた枕と寝間着を掴み、頭側へ放り投げた。  就寝動作練習は『寝間着への着替えと寝具の準備をして布団に入るまでを二分三十秒以内に済ませる』という訓練である。それだけきくと何となくできそうな気がするが、ここで問題なのが前述の畳み方。ベッドに枕と毛布を配置して寝間着に着替え、脱いだ衣服を折り目正しく畳んで靴まで揃え、ベッドに飛び込み毛布を体に巻き付け姓名申告をしてようやく完了である。厳しい! 「長門弓親!」 「大鷹藤次郎!」 「千鳥四万虎!」 「霧島誠! あー最後かあ」  私は悔しくて思わず声を上げた。  天城先輩は懐中時計を見ながら鼻で笑った。 「……二分二十七秒! ギリギリだがまあよかろう。続いて起床動作! 用意、起きろッ!」  掛け声とともにベッドを飛び出す。さっきとは逆にベッド横で事業服に着替えて寝間着を丁寧に畳む。足側に畳んだ毛布の上に枕、寝巻きを重ね姓名申告。 「長門弓親!」 「千鳥四万虎!」 「大鷹藤次郎!」 「霧島誠! あーっまた!!」  悔しがる私を馬鹿にしたような目で見た天城先輩は『二分十六秒!』と声を張った。
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