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幕間:お嬢さんからの手紙
「少尉、お手紙が届いております。烏丸嬢からです」
「小夜さん!?」
ひとしきり事務仕事を終え机に臥していた私は、鹿島の声に思わず身を乗り出した。現在の停泊先には一週間ほどいる予定だったので、そのことを前回送った手紙の中にそれとな~く書いておいたのだが小夜さん、さすがである!
「は、早くっ! くれ! いますぐ読みたい!!」
「落ち着いてください。書類は終わったのですか書類は。明日までのもの沢山貯め込んでらしたでしょう」
「終わった! 終わりましたッ!!」
「先に確認します。少々お待ちください」
「ぐっ……!」
鹿島がてきぱきと書類を確認する間、私は生きた心地がしなかった。せっかく少尉になったのに、相変わらず『待て』の呪縛である。
鹿島兵曹長はとてもよく出来た年上の部下で──よく出来すぎてもはや上司や教官のようなお目付け役である。陸軍からの転向組で、あだ名は『鹿島軍曹』。細く鋭い目と休憩時間に掛けている眼鏡がトレードマーク。海軍軍人であるので勿論レンズは入っていないが、何もふざけているわけではなく、元上司の遺品なのだそうだ。その侠気に物言いをつけるような無粋者は海軍には居ない。
しかじかそんなセンチメンタルな一面を微塵も感じさせない鉄仮面と鬼畜ぶり、これこそが鬼軍曹・鹿島の真骨頂なのであった。
一秒でも早く手紙を読みたいと、私はそろりそろりと鹿島の後ろに回り込みそーっと手を手を伸ばした。
刹那、鹿島は私の肘上あたりを脇で固め一気に締め上げた。
「いたたたたたたたたたッ!!!! ごめん、ごめんなさいッ!!」
「何と堪え性のない! 貴方は海兵で何を教わってきたのですかッ!!」
「いったあ……!!! 少しは加減してくれー」
鹿島は特大溜息を吐きながら私の腕を離した。漸く解放された腕をさすりさすり、私はついに三年間一度も弱音を吐かなかった大鷹の忍耐強さを思い出していた。
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