幕間:お嬢さんからの手紙

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「どうぞ」  本当は全くどうぞなんかではない。せっかくお手紙読んでいるのに……である。私は仕方なしに手紙を畳み、そっと机の端に伏せた。  ガチャリとドアが開く。 「霧島、仕事終わったか?」  ──長門中尉、現在の私の上官である。  相変わらず素晴らしい体型に端正な顔立ち。年齢なりに磨きが掛かり魅力満点。サラサラの髪を撫で付けの七三に整えた同期の星である。陸に上がればそれはもうモテるモテる。それなのに許嫁一筋とは、そんなもの部下にだってモテるに決まっているのであった。 「は、──はぶしッ!! あーちきしょう!」  ……くしゃみが不細工は相変わらずのご愛嬌だ。  海軍兵学校の同級生が上司部下の関係になる事は珍しくなく、むしろ学生時代に築いた人間関係のまま働くのが海軍流。学生時代の友情、先輩後輩付き合いのおかげでフラットで働きやすい職場環境を作れるというわけです。  まあ仲の良さゆえの隠蔽体質であるとかお友達軍隊であるとか批判もありますが、自由主義でユーモアを重んじる海軍主義(ネイビーシップ)という気風は、奇しくも私の性格に合っているようで。そんなわけで長門とは今でも仲良しです! 「いましがた片付いた! 夕食か?」 「うん、レス一緒に行こうかと思って。鹿島も来るか?」  鹿島は長門に向かって敬礼で応えた。鹿島にとって長門は上官の上官だが、長門から見た鹿島は友達の親戚のおじさんくらいの認識である。 「その手紙……恋人か?」  長門は明らかに女物の封筒を見てにやりとした。 「いや、そのまだ……違うんだけど。前に話してた」 「ああ、お小夜ちゃんか」 「気安くお小夜ちゃんとか言うな! 自分もまだちゃん付けなんかしたことないのにッ!」  思わず吠えた私を長門はケラケラ笑いながら軽くいなした。 「どうせ久しぶりの手紙なんだろ。俺、鹿島とガンルームいるから読み終わったら来いよ。ゆっくりでいいぞ」 「ああ。じゃあ後で」  長門は白手袋の左手をサッと上げ、鹿島を連れて部屋を後にした。
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