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私はひとりになった部屋でもう一度便箋に手を伸ばした。小夜さんはお元気だろうか。少しでも近況が書いてあるといいな、と思った。
『そういえば一つ気になったことがあります。大鷹藤次郎様というお友達、もしかして第二艦隊所属の少尉様ではいらっしゃいませんか?』
「え……? そうです」
思わず声に出た。なぜ小夜さんが大鷹のことを? 小首を傾げ読み進める。
『実は絵師の鈴鹿鸚助先生が先日うちにいらっしゃいまして、江田島わんわん物語をお読みになった際にもしかして知り合いかもしれないと仰っていたのです。何でも先生をご贔屓にされている方のお一人だそうで、神戸での個展をきっかけに知り合われたそうですよ。』
(なんと、鈴鹿先生まで読まれているのか……大人気だな!)
私は小説家でもないのに今までの作風で問題がなかったか、技術的に稚拙な点はなかったかを思わず省みた。
海兵卒業後私と長門は第一艦隊へ、大鷹と千鳥は第二艦隊へ配属された。軍縮にあたり第二艦隊が再編成された際は一時的に四人が同じ職場に会するという時期もあった。
第一艦隊と第二艦隊では戦時の役割が違う。『海軍休日』と呼ばれる軍縮の今でこそあまり差はないが、有事の際は私と長門は第一線に赴く。──それぞれの愛しのお嬢さんを陸に残したまま、戦艦に乗って。
『もし大鷹様が少尉様のお友達だとしたら、それは素敵なご縁ですね。お話は変わりますが榛名先輩のお姿を、屋敷の皆は勝手に水銀先生に似ているのではと想像して楽しんでおります。いつかのお手紙でご回答いただけますことを楽しみにお待ちしております。どうかご自愛専一にてお過ごしください。 かしこ』
(榛名先輩と水銀先生か──かなり似てますね)
私はぼんやり宙を見上げて頷いた。
榛名先輩、扶桑先輩、そして天城先輩の現在についてはまた改めてお話ししたいと思います。そろそろ長門の空腹が限界でしょうから。
引き続き『江田島わんわん物語』お付き合いください。閑話休題。
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