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第4章:武道週間
4-1『さよならメイちゃん』
「霧島、手紙だ」
「はい! ありがとうございます」
就寝時間の少し前、私は見回りの教官から急ぎの手紙を受け取った。差出人は──霧島静。
「へー姉上か。珍しいな」
封を切り手紙を広げる。禁欲極限状態の寮生活、姉上の送ったピンク色の便箋は同室たちの関心を一身に集めた。構わず読み進めてゆく。
だんだん曇ってゆく私の表情を、長門が心配そうに見つめている。嶮しい表情の後みるみる内に私の目に涙がたまってゆき、千鳥はギョッとし大鷹は口元を押さえ同情した。長門がたまらず口を開く。
「……どうした。病気とか、良くない報せなのか?」
「い、許嫁が」
許嫁という言葉に皆が顔を見合わせた。
「許嫁が、フランスに男と高飛びした──破談だあ!」
「なっ……!!」
長門は思わず顔を覆い、そのまま布団の海に勢いよくダイブした。ふるふる背中を震わせながらこらえている──爆笑の悪魔と闘っている。もはや少しも動けぬ長門の代わりに千鳥が私の肩を抱く。……口元が笑っている。
「まあ、気をおとすなよ誠。人生は長いんだ。たまにはそんなことも」
「……ある訳ないだろ」
普段寡黙な大鷹のツッコミに部屋中笑いの渦が巻き起こった。みんな酷い! 他人事だと思って……!!!! 私はギリギリ歯噛みした。
一番酷いのはメイちゃん、君だ。信じていたのに……!!!
「な、なぜ……なぜなんだ、メイちゃああああああああ────ん!!!」
私は床にへたり込み天を仰いで咆哮した。
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