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──そうです。小夜さん、今までお話ししておりませんでしたが実はその昔、私には許嫁がいたのです。
彼女の名前は芽子さん。私より三つほど年上の当時十九歳、陸軍大将の末のお嬢さんであり女学生でありました。十九歳のご令嬢というのは十六歳の私にとっては大変素敵な大人の女性に見えて、お恥ずかしながら淡い初恋の相手であったように思います。
メイちゃんこと芽子さんはすらりと背の高い色白の美人で、身近なところで例えるならば何となく小夜さんの女中さん、お園さんを彷彿とさせる大人びた外見をしておりました。だから小夜さんに初めてお会いした際にご年齢を聞き、十九歳がすっかり年下になっていたことに驚いたものです。
小夜さんはどちらかと言えば少女的と申しますか、お可愛らしい容姿をお持ちでいらっしゃるのでなおのこと……いえ違うんです。けして貴女が子供っぽいとか申しているわけではなく、違うんですよ。むしろその小柄で純粋そうな雰囲気が一生お守り差し上げたいというか、その、とにかく違うんです。
初恋の相手と比べてしまうなんてことはさらさらなくて、とにかく断トツお可愛らしいのです。小夜さんが一等賞。最高。そんな小夜さんのことを、もう自分はどうしようもなく────
「霧島ァァァ!!」
天城先輩がドアを壊さんばかりの勢いで部屋に飛び込んできた。
「貴様さっきの大声は何だ! 三つ先の部屋まで貫通しおったぞ!!」
「はっ! 申し訳ありませんッッ!!」
「うるさい声量馬鹿が! ちいとは声を落とさんか!!」
天城先輩のお叱りに私はハッと我に返った。先輩は半泣きの私を見上げガミガミと叱り続けた。
「まったく何なんだ貴様は!誰なんだメイちゃんは!誇り高き海軍兵学校で女子の名前を叫ぶなどけしからん! 理由を言え!」
「はっ! 許嫁が女学校の美術教師と巴里へ高飛びいたしましたッ!」
「はあああ!!?」
天城先輩は弾かれたようにのけぞり驚いた。くだんの手紙を見せると先輩は目だけを動かし速読した。
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