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4-2 『竹刀踊り三段』
明日月曜日から一週間の武道週間が始まる。
──当時は武道ではなく『武術週間』とよんでおりましたが、便宜上本書では大正八年以降の形式で武術を『武道』として記します。今日ではだいぶ定着致しましたが、剣術が剣道になったのはつい最近なのですよね。不思議な感じです。
「納得いかねえー」
大浴場から戻った長門は濡れ髪のまま、むーっと膨れてベッドの上にあぐらをかいた。
「さっきバスで二号の先輩が二、三人寄ってきてさあ。お前剣道三段らしいなって」
「ああ、明日から強化週間だからかな」
私の問いに長門は溜息を吐きながら頷いた。千鳥はなになにと寄ってきたが、大鷹は少し離れた窓際で本を読んでいる。多分耳だけはこちらに向けたまま。
「ハイって答えたらさあ、『娑婆の剣道は竹刀踊りだからな。まあ初段扱いってとこか』だってさ。はあそうすかって言っちゃった」
「言っちゃった! 大丈夫だったのか!?」
慌てる私に長門はうんと頷いた。千鳥は扶桑先輩に向けるような目で長門を見た。
「弓親、なーんか危なっかしいんだよなあ。こないだも一号先輩に修正食らって平然としてたじゃん。あれちょっと引いたもん」
「いや正直うちの父上とか兄上の方がやべえから、あんまり先輩怖いとかはないんだよな。今んとこだけど」
「いやいやお前だよ怖いの! でもお父上とお兄さんもっとって……やっぱ剣道のこと?」
「うん。まあ躾もきつかったよ。うち士族なんだけど旧ぃ武家でさ、師範が父上なんだよな。で長兄が師範代。だからもう三歳からしごかれまくりで」
「うえええ。三歳って言ったら俺、縁側で算盤滑らして猫と一日遊んでたわ」
千鳥は分かりやすく同情した。
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