第4章:武道週間

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 この年齢の私たちは具体的に戦闘の事を考えることがつらかったし、それ以前に明確に想像することができなかった。ただ兵学校を出て士官候補期間を終えたら、部下の命を預かる将校になる。  今は戦時でないにしても、もし『その時』が来たら……自分が上手く戦えず部下を前に前にと差し出すような男にだけは絶対になりたくないと思った。むしろ自分と部下を守るために戦える強い上官になりたいという、義憤にも似た正義感があった事だけは覚えている。  ──と、真面目なことを申しましたが、当面の目的は憂さ晴らしです!  実は武道週間の最終日である土曜に三号対一号・二号で剣道の試合がありまして、それに向かってある程度の形を作っておく必要があるのです。剣道は月・水・金なので突貫ですね……せいぜい防御できるように頑張ります。 「整列-ッ!」  我々三十九分隊の十六人は、八名ずつに並んで向かい合った。同様に二十から四十までの分隊が本日の剣道受講者、残りの半分は柔道場にいる。   いつものような席順ではなく私は長門と、大鷹は千鳥と向かい合った。 「礼ッ!」  ザッと音のするような礼をする。今日は初回ということで跳躍素振りと乱取り(互いに技をかけあう自由練習)を行うのだが、剣道初心者の私は有段者の長門につけられた。 「いや、身長差あ……!!」  千鳥は大鷹の頭をひょいひょいと竹刀の先で指しながら喚いた。  大鷹と千鳥は互いに経験者なので自由に相手を選べたはずなのだが、大鷹の並々ならぬ剣豪感と薩摩感から『あいつ示現流使うらしいぞ!』とあらぬ噂がたってしまい誰も相手をしたがらず、見かねた千鳥が手をあげ組むことになったのだ。 「千鳥、大鷹相手じゃ面を打てる気がしないな」  初心者なりに気の毒がる私を長門が軽く笑う。 「確かに一歩で踏み込める間合いだとか腕の長さで大鷹が有利ってのはあるんだけど、剣道は何もガタイの勝負じゃないからな。相手の的が小さいと小手や胴は狙いにくいし、上から面を打とうと思えば胴が開く。まあ千鳥が瞬発力ガンガン鍛えたらの話だけどさ」 「なるほど。駆け引きかー面白いな」  長門はいつになく饒舌に教えてくれた。
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