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「長門生徒! 前に出ろ!」
「はい!」
長門は教員に呼ばれて前に出た。
「長門生徒、剣道三段らしいな」
「はい」
きたきた。私と千鳥、大鷹は静かに目くばせした。
「これから軍の剣道の実演を行う。俺が打ち込むから受けてみろ! 構えい!」
長門と教員は互いに向かい合って一礼すると、竹刀を構え蹲踞の姿勢をとった。立ち上がり実演が始まる。教員が一際大きな声で説明を始めた。
「まず、面を打つとする! 娑婆の剣道のように声は出さず一心に打ち込む! 受けい!」
「はい!」
長門は竹刀を斜に構え教員の面を受けた。
「空いたところに胴を打てい!」
「はい!」
長門は言われた通り教員の胴を打った。信じられない快音が響き渡る。
「ぐッ……!!!」
教員が竹刀を下ろし『ちょっと待て』と手で制した。たぶんやりすぎてる。
「しゃ、娑婆の剣道は竹刀踊り……! このようなっ、甘い打ち込みではッ……! 通用、せんッ!」
(めちゃくちゃ通用して見えるな──)
私を含む本日の剣道受講生五百人あまりが皆同じような感想を持った。さすがエリートの三段、一撃の重さが規格外である。コの字型に囲むように整列した人垣がザワザワと湧いた。
「海軍の剣道では胴はこうして打つ!」
漸く回復した教員は長門に胴を開けさせ、斬りつけるように胴を抜いた。長門は無表情で技を受けた。
(長門、『娑婆の剣道』って言われるの絶対イラッとしてる……)
「同様に面、小手も相手を『斬る』動作までを一連で行うようにッ! その間は娑婆の剣道のごとく大声を上げる必要はない! ……来い! 長門生徒」
「はいッ!」
長門はとんでもない跳躍力でもって一歩踏み込み、教員の面に剣道場に響き渡るほど強烈な一撃を加えた。無表情。明らかな私怨と自らの剣道に対する矜持を感じる重さであった。
「────ッッッ!!! 以上ッ! 戻れい!」
「はい! ありがとうございましたッ!!」
長門は一礼すると竹刀を提げこちらへ戻ってきた。
元のように私に向き合う面の奥、ニヤリと笑って赤い舌を出した。
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