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「試験は篩落としだからな。まずは学科に受からなければ、面接や体力測定までそもそも進めん。たしかここ暫くの倍率が三十倍から四十倍だったと聞くぞ」
「はあ、なるほど──よんじゅうばい⁉︎」
私はあらためて父を尊敬の眼差しで見詰めた。
「それから入学試験の成績は後々響いてくるぞ。絶対気を抜くな!」
「どういうことでしょうか」
「入れば分かるが、入試の順位はそのまま自習室の席順になる」
「なっ……!?」
「見てくれだけではない。海軍兵学校には『対番』という制度があってだな。二、三年の同順位の先輩が縦割りでお前の面倒を見る」
「とすると、首席で通ればニ年首席と三年首席の先輩がついて」
「最下位になれば最下位が二人つく」
「えげつない!」
私は思わず青ざめた。
実は卒業後も海軍の出世は『卒業時成績順』によるところが大きい。そのためには新入生のうちからより優秀な先輩について頂き、質の高い指導を受ける方が良いに決まっている。出世競争はすでに海兵入試から始まっているのだ。
「さ、参考書! 参考書買いに行ってきます!!」
「それなら問題ない!」
父は書斎机の後ろから箱いっぱいの参考書を持ち出した。どれも最新の新品。──嵌められた!と思うも時すでに遅し。だがやると決めたからには手は抜かない、私は腹を決めた。
──微塵も楽しくなく二度と思い出したくもないので割愛するが、かくして私は猛勉強の日々を経て何とか江田島へ向かう資格を手に入れたのであった。
なお順位はまさかの三番手。思いがけない快勝に私が一番腰を抜かしたことは言うまでもなかった。
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